安倍前首相が「知らなかった」はあり得ない!・・・自民党政権の政務担当秘書官として
2020年12月27日 tag:
安倍前首相が、「桜を見る会前夜祭」の経費補てん問題をめぐって、「秘書がやったことで知らなかった」という抗弁を繰り返している。到底信じることはできない。
私は昔(1996年1月~98年7月)、自民党政権(橋本龍太郎政権)で政務担当の総理秘書官をしていた。まさに、安倍政権でこのポストに就いていたのが、今井尚哉氏だ。私と同じ旧通産省出身で3年後輩にあたる。若い頃から仕事のできる優秀な官僚だったのでよく知っている。
この政務秘書官という立場は、世間にはなじみが薄いが、その仕事は、時の政権の重要政策の立案から、与党幹部との連絡調整、国家機密の保全にまでわたる。いわば、総理と一心同体の「分身」ともいえる存在で、その権力たるや、法律上の所掌事務(※)からは伺い知れず、時には与党三役や大臣のそれをも凌駕する。安倍政権当時、今井秘書官と菅官房長官との確執が取り沙汰されたように、内閣の番頭役の官房長官とて、その例外ではない。
(※)「内閣総理大臣の命を受け、機密に関する事務をつかさどり、又は臨時に命を受け内閣官房その他関係各部局の事務を助ける」(内閣法第23条)
ただ、この政務秘書官の最大の使命は「総理を守ること」だ。そこが役所から出向の事務秘書官と決定的に違う。ひとたび政権を左右する事象が起これば、官邸内で誰よりも総理の指示を受けて、その事態収拾にあたる。それは時に、現下の重要課題への対応であったり、災害やテロ等の危機管理であったりする。そして、総理と二人きりで対処すべき事柄が、総理自身の個人的なスキャンダル(金銭や女性問題等)への対応なのだ。「分身」の「分身」たる所以のところだ。
まさに、本件がそれにあたる。これだけ野党から連日、かつ長期間にわたって国会で責め立てられ、対応を一歩間違えると政権を失う、総理辞任にまで結びつく深刻な問題について、この政務秘書官が指をくわえて総理と事務所秘書とのやりとりを見ているなぞあり得ない。ホテル側から明細書や領収書が出てくれば「一発でアウト」の事案だからだ。必ず「政務秘書官預かり」となる。そして、この政務秘書官の存在がある限り、「総理は超多忙だから一々事務所のことを自らが調べ確認する暇がない」「安倍氏のような大きな事務所なら尚更だ」「だから安倍総理が知らなかったのも頷ける」との論は成り立たない。
そう、危機管理、スキャンダル担当の今井政務担当秘書官としては、徹底的に事務所の秘書を問い詰め、一方で、ホテル側には周到な根回しをし、総理の身を守る。当たり前の話だ。そして、調べた結果は当然、内々に安倍氏に報告する。こんなことさえできなければ政務秘書官失格なのだ。もちろん、今井氏にそれは当てはまらない。どころか名うての「名秘書官」なのだ。安倍政権下では、アベノミクスの立案やロシアとの北方領土交渉、拉致問題等を主導した。
そして、そのうえで、必要な防御策を十分検討したうえで、安倍総理(当時)は、国会で「補てんはない」「参加者がホテルと一人ひとり契約を結んで会費を払っている(安倍事務所は介在していない)のだから収支報告書に記載する必要はない」等々の強弁で野党やメディアの攻勢を強行突破してきた。と言うか、そう突っ張るしか選択肢がなかった。
特に、「ホテルと参加者が直接契約」という「奇妙奇天烈」「法匪」のようなロジックは、安倍氏自身が考え出したとは到底思えず、今井氏ら総理周辺がひねだしたものに違いない。こんな自民党議員を含めて議員なら誰しもおかしいと思う本邦初演の屁理屈が通るなら、会費を原価で徴収すれば、政治家の後援会会合は一切、政治資金収支報告書に記載しなくて良いことになる。こんなことを許せば、こうした脱法行為が多発し、政治資金の不透明性は益々高まっていたことだろう。
しかし、人間、悪いことはできないものだ。こうした「強弁」で災禍をくぐり抜けたと一息ついていたところに、最高裁判事出身の弁護士を含む662人の法曹から告発状が検察に出された。折しも、検察にしても、検事総長人事をめぐる露骨な官邸による人事介入、すったもんだがあり、「検察の組織防衛」「官邸による人事介入排除」のためにも、これを受けて、新総長の下、地検特捜部が動き始めたのである。
私は、安倍首相退陣の真相は、この「桜を見る会前夜祭」をめぐる捜査の動きも、その大きな要因の一つだったと見ている。だってそうではないか。安倍前首相が続投していれば、今頃どうなっていたことか。秋の臨時国会では安倍氏は野党の追及に「火だるま」になり、第一次政権のようにボロボロになって退陣を余儀なくされていたことだろう。安倍氏にとっては、それだけはどうしても避けたかった事態であったはずだ。「あの悪夢のような第一次政権の退陣劇は二度と繰り返さない!」。退陣後の安倍氏の「活躍ぶり」にはめざましいものがあり、とても病弱で退陣したあとの人物にはみえなかった。
もちろん、それだけではないだろう。「外交の安倍」ともてはやされた政権も、北方領土返還にしろ、拉致問題解決にしろ、進展どころか後退を余儀なくされ、コロナ感染の終息も見えず、政権の先行きに希望が見えないという事情もあったことだろう。8年近い長期政権で疲れもあり、病気のこともあったのだろう。そうした総合的判断で、8月22日に「総理連続在職日数」が史上最長となった節目に、首相退陣を表明したと私は見ている。決して「病気」だけが理由ではない。
今後の焦点は、検察審査会に移る。時あたかも、東京高検の黒川弘務元検事長が賭けマージャンをしていた問題で、不起訴(起訴猶予)とした東京地検の処分に対し、検察審査会が「起訴相当」と議決し、東京地検が再捜査することになった。検察がその結果、再度不起訴にしても、検察審査会が再び「起訴相当」とすれば裁判となるのだ。
同じように、本件も審査会が二度「起訴相当」と決定すれば裁判になる。その場合は、安倍氏が「不記載」や「経費補てん」を指示したか、了承したかの証拠が求められることになる。そう、検察が安倍氏をあえて事情聴取したのは、この来たるべき検察審査会への対応、その「言い訳」のためだったのだ。「捜査は尽くした」と。
検察は、「総理の犯罪」としては「軽微」だし、検察の組織防衛、官邸による人事介入への牽制さえできれば、秘書の略式起訴で十分だと考えたのであろう。検察も官僚組織なので、そうした政治的判断はする。私が経験した「大蔵金融接待スキャンダル」でも、詳しいことは言えないが、それらしきことはあった。しかし、そんなことは許されない。是非、裁判で衆目の監視の中で黒白をはっきりさせていただきたいと思う。
退陣して間もない頃、側近に「安倍さん、まだ新記録が残っていますよ。たしかに在職日数は最長だが、就任回数は四度(伊藤博文首相)というのが記録ですから」と言われ、安倍氏は満更でもなかったという。しかし、これで少なくとも三度目の総理就任は「夢のまた夢」と成り果てたのだろうか。
いずれにしろ、安倍氏は、「連続在職日数最長の総理」としてだけでなく、国会という「国権の最高機関」で118回も虚偽答弁を重ねた、憲政史上稀に見る「最大の汚点を残した総理」としても歴史に刻まれることだろう。
安倍氏はその責任をとって潔く議員辞職すべきだ。故加藤紘一衆院議員は、秘書の脱税事件の発覚で自らの政治資金処理にも疑義が生じた責任を取り、議員辞職(2002年4月)したうえで、一軒一軒、地元をお詫び行脚して回ったという。強くお勧めしたい。
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