統計不正、段階を追って悪質化、ハイレベル化・・・問題の本質を分けて考える必要
2019年2月 3日 tag:
毎月勤労統計の不正。問題の所在を4段階にわけて考える必要がある。この4段階に応じて「不正度」がステージアップしていく。
第一段階。04年1月から「全数調査」を「抽出調査」にしたのは、閉じられた世界、他の部署とも人事交流が少ない統計専門部署内の独断だろう。
やれ「東京都から要望がある」「全数は負担が重い」「抽出でも補正すれば良い」程度の理由から、さして罪悪感もないまま勝手にやったと思われる。もちろん、大臣はおろか、統計情報部長(当時)にまで上がっていたかどうかも疑わしい。
私も昔、通産省(現経産省)の統計部署にいたことがあるが、ここは「特殊な世界」なのだ。良く言えば「専門(プロ)集団」。しかし、それは統計学やその数理論さえ知る人が少ない、単に在職期間が長いというだけの集団でもある。日頃、光の当たらない機械的労務が多いので、「馴れ」が「惰性」を生み、士気があがらない部署でもある。そこに「定員削減」や「経常経費の1割カット」が容赦なく襲う。
第二段階。15年1月から、わざわざ、それまであった「規模500人以上事業所は東京に集中しており、全数調査にしなくても精度が確保できる」という記述を、マニュアルから削除したのは意図的だ。その前年10月に、統計委員会(総務省)の部会が新たに毎日勤労統計の調査手法を点検対象にしたからだ。16年10月には、担当参事官が総務省に「全数調査を継続」と虚偽の説明までしている。統計部署内の組織的隠ぺいが大いに疑われる。
第三段階。それは、18年1月からの「サンプル入替え」と「データ補正」だ。これは、15年10月の麻生大臣の経済財政諮問会議における発言が発端だ。
「毎月勤労統計については、企業サンプルの入替え時には変動があるということもよく指摘されている。(中略)是非、具体的な改善方策を早急に検討して頂きたい」
この指示を受けた最初の入替え・補正が、昨年からスタートしたのだ。30人~499人の事業所のそれまでの全数入替えを、麻生大臣指示を受けて、18年と19年は経過措置として1/2ずつ入替えとした。そしてこれに加え、500人以上の大企業抽出調査を「全数」並みに補正したのだ。問題は、17年の調査はそのまま従前の数字を採用し、それと比較をした。17年より18年の方が賃金の高い大企業比率が高いので、単純比較すれば18年の賃金上昇率が高く出るのは当たり前の話だろう。
ここに、官邸(政治家だけでなく官邸官僚)の意向が介在していなかったのか、という疑惑が出てくる。統計という極めて専門的な分野に「経済財政諮問会議」が介入してくる。しかも、その発言主は副総理兼財務相の麻生氏だ。私の経験からも、この会議での「大臣発言要領」は、事前に少なくとも事務方(かなりのハイレベル)で用意周到に調整される。そして、ひとたび、大臣が発言したマターは「大臣案件」になり、その後、実施状況がしっかりフォローされることになる。
第四段階。根本厚労大臣は、本件につき、昨年12月20日に報告を受けたが、翌日には粛々と不正な統計を事務方が発表している。大臣が報告時点でなにがしかの是正のための指示をしていたのなら、考えられない官僚側の対応だ。
その後、21日、25日、28日と年内に3回、大臣記者会見があったにもかかわらず、根本大臣は本件については一言もふれなかった。しかし、28日に一部報道でこの問題が発覚した途端、やっと、総理に秘書官を通じて報告。結局、根本大臣が本件にはじめて公に言及したのは、年が明けて1月8日の会見の席だった。
この一連の流れを見れば、根本大臣が、事の重大性への認識がなかったか、あるいは、隠蔽しようとしたか、と思われても仕方がないだろう。いずれにせよ、大臣の政治責任は免れないだろう。
最後に、もう一度言う。統計を司る部署は、どの省庁も、日頃は光があたらない地味な部署だ。他の政策部署との人事交流も少なく、専門職(プロ)といっても「馴れ」と「惰性」で士気があがらない部署でもある。そういう中で、04年~14年までは、自民党、民主党政権にかかわらず、大臣、政治家にこの「不正」があがっていたとは、私はまったく考えない。大臣はおろか、キャリアの局長、部長クラスに上がっていたとも思えない。
しかし、その後、部外者の「統計委員会」(総務省)や「経済財政諮問委員会」(官邸)が介在してくるようになると事情は一変する。特に、後者は、森友、加計問題にみられたように、官邸官僚が出張ってくる局面ともなる。
そこに、「指示」がなかったのか、「忖度」はなかったのか。政治の責任は、本件では、知らなかったことより、その不正を知った時、どう対処したかで問われてくる。こうした問題をこれからの国会で徹底的に究明し、国家の基盤たる「統計」の信頼回復に向けて、与野党の別なく、取り組んでいかなければならない。
Copyright(C) Kenji Eda All Rights Reserved.