カジノ(IR)。成功例(シンガポール)と失敗例(韓国)の決定的違い
2018年9月18日 tag:
この夏、私はシンガポールのカジノを視察してきた。それが、安倍首相をはじめ「カジノ推進派」の「成功例」とされているからだ。2014年5月、安倍首相がここを訪問し「成長戦略の目玉」と述べたことは記憶に新しい。
同じく私は、昨年6月、「失敗例」とされる韓国・カンウォンランドも視察した。そこで見たものは、このコラムでも報告した通り、風俗店と質屋が建ち並ぶ「奇怪な風景」(韓国内の評)と化した町の姿だった。炭鉱閉山後の地域振興の目玉として導入したカジノだったが、あまりの風紀と治安の乱れに小学校ですら隣町に移転し、当時15万人だった人口は3.8万人にまで減少した。一体、この二つのカジノの違いはどこから来るのか。それが私の今回の視察に課せられた主要課題だった。
その意味で、今回の視察で幸運だったのは、議員交流の一環で会った国会議員の一人が、シンガポールで二つのカジノ(IR)を所轄する警察署長出身だったことだ。早速、私はある推論を立て、なぜシンガポールでカジノは成功しているのかを問いただした。
その推論とは、シンガポールでカジノが成功しているのは、人口が570万人(200万人の外国籍を除けば370万人で横浜市並み)の都市国家で、かつ島国(東京都並みの面積)、個人情報が厳格に管理され、カジノへの出入りにも周到なチェックが行える等々の「規制取締り国家」だからこそではないか、というものだった。そして、その推論は見事なぐらいに当たったのである。
まず、シンガポールは巷では「明るい北朝鮮」と称されるように、公権力による個人情報の把握と、それに基づく規制や取締り、監督が極めて厳しい国だ。「ポイ捨て」につながるタバコやガムの持ち込み禁止もその象徴だが、それだけでは、もちろんない。顔認証や指紋認証をはじめ、個人情報は国家に広範に把握され、その情報に基づきカジノへの出入りは正確に管理できる。この点、マイナンバーカードですら普及率が一割程度の日本とは大きな違いだろう。
また、植栽の陰に監視カメラが町中に設置されている「監視国家」でもある。その証左として、タクシーを乗り逃げしても、その現場が監視カメラに写っているから犯人も翌日につかまるという説明も、その議員からあった。個人情報管理も含め、こうした公権力による監視は、人権意識の高い先進国で受け入れられるだろうか。
さらに警察のカジノ取締りも周到だ。警察にカジノ犯罪調査部門があり、カジノ場にも警察のオフィスがあるという。カジノがらみの「闇金」対策にも警察に専門部署があり、そのペナルティーも重く、高利貸しや非合法融資には刑期だけでなく「むち打ちの刑」(先進国では禁止)すらあるという。そして、カジノのセキュリティーリーダーは警察OBが務めている。
その他、説明を受けたものをあげれば、内国人には100シンガポール$(約8000円)の入場料、カジノ(IR)への無料シャトルバスは禁止、生活保護者等の入場禁止、国家公務員のカジノ利用は月二回に限定し、利用した場合は事後的に上司に報告等々の規制があるという。
そして、全般的なカジノ規制と取締りは「カジノ規制庁」が行い、カジノがらみの犯罪は、一定の要件の下、裁判を経ることなく行政(大臣)命令で逮捕・有罪にもでき、裁判になる場合も迅速な裁判システム(1週間以内の結審)があるという。
私は議員会合の最後に、その警察署長出身の国会議員に一番聞きたかったことを聞いた。カジノ(賭博)の最大の懸念の一つが、組織的犯罪集団(暴力団)との結びつきだ。それが原因で、売春の横行や治安の乱れ、マネーロンダリング等の問題が起こる。シンガポールに一体、組織的犯罪集団(暴力団)は存在するのか否か。
彼の答えは明確だった。「たしかにシンジケート(組織犯罪集団・暴力団)は、1980年~90年代には存在したが警察力で壊滅させた。シンガポールには犯罪集団といっても『ひったくり』の類しか存在しない」。そう、カジノ(賭博)と結びつこうにも、その土壌すらがそもそもないのだ。
これで氷解した。そう、シンガポール・カジノの成功は、こうした「特殊な環境」下での成功なのだ。たかだか小一時間だけここを視察し、やれ「成長戦略の目玉だ」とか、「日本でカジノを導入しても大丈夫」と言い切るのは、あまりに浅薄で短絡的な物言いと断ぜざるを得ないだろう。
(写真は議員懇談の模様。3人のうち、一番手前の方が警察署長出身の国会議員)
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