民進党の処方箋は自民党の「政治的したたかさ」を学ぶことにある
2017年8月22日 tag:
蓮舫代表が突然、辞意を表明した。その背景には、加計・森友問題や陸上自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)疑惑、「お友達閣僚」の失言などによる安倍内閣支持率の急落にもかかわらず、民進党の支持率は上がるどころか下がり、政権交代可能な二大政党の一方の雄を占める、という結党の目標とは程遠い現状があったことは言うまでもありません。
しかし、それは一人、蓮舫代表だけに責めを帰すべきことではありません。昨年、民進党という新党を結成したにもかかわらず、旧民主党政権の負のイメージから脱却できず、それどころか、国民は「民進党は旧民主党と変わらない」と思っています。民進党が政権与党・自民党に代わる「受け皿」として足り得ていない理由はそこにあります。それほど、あの民主党政権時の体たらくが国民の脳裏に焼き付いているということです。
ですから、民進党浮上のための処方箋は、まず何よりも旧民主党時代からの「たらい回し人事」を一新し、「民進党は確かに改革政党として生まれ変わった」と国民に振り向いてもらうことから始めなければなりません。
その意味では、代表選においても、旧民主党時代の「顔」だけでなく、清新な若手や旧民主ではない人間が立候補し、大いに政党の理念や立ち位置、政策の論争をすべきではないでしょうか。それがかなわないのであれば、残念ながらこの党にはまだまだそれだけの危機意識が醸成されていないと言わざるを得ません。
また、私が地方組織担当の代表代行として全国を回っていると、「民進党が何をやる政党かわからない」「自民党との違いは何なのか」という問いかけをよくされました。そもそも、こうした政党の基本中の基本のことですら、国民にまだ理解されていないことを痛感したのです。
そこでまず、その政党の基本、すなわち「立ち位置」や「理念」について説明したいと思います。それは、米国に「共和党」と「民主党」、英国に「保守党」と「労働党」があるように、私は日本に自民党と民進党があるのだと考えています。
自民党は「共和党」「保守党」にあたり、すなわちどちらかと言うと、「業界」や「企業」「経営者」の側(「供給者側=「サプライサイド」)に立つ政党です。これに対し、民進党は「民主党」「労働党」に匹敵する、すなわち「生活者」や「消費者」「働く者」の側(「需要者側=「デマンドサイド」)に立つ政党)なのです。
私はいまどき、イデオロギーで政策の是非を演繹(えんえき)的に決めるべきではないと思っているので、「保守」「リベラル」といった区分け、二項対立の図式を好みません。自身を保守政治家ともリベラル政治家とも称したことはありません。そういう考えで、維新の党の結党にあたっても、その綱領に「保守vsリベラルを超えた政治を目標」とし、「内政、外交ともに、政策ごとにイデオロギーではなく国益と国民本位に合理的に判断する」と明記しました。
ただ、その上であえて分かりやすくするために、この用語を使って表現するなら、「保守政党」を自認している自民党は基本的に日本古来の「伝統的な価値観や生き方」を重視する政党です。これに対し、民進党はそれを否定はしないものの、最近出てきた「多様な価値観や生き方」を認める政党です。その意味では「リベラル(自由・寛容)」な政党と言っても良いでしょう。民進党の綱領にも「多様な価値観や生き方、人権が尊重される自由な社会を実現する」と書いてあります。
以上のような基本的な「立ち位置」や「理念」の違いを前提として個別の政策を論じていかないと、なかなか国民から先ほどの「民進党って何をする党?」「自民党との違いは何?」といった素朴な疑問を拭い去ることはできないと思います。
それでは、以上のことを前提に、具体的な政策で「自民党との違い」を浮き彫りにしていきましょう。
まず、第一に「外交・安全保障」面での違いです。焦点は「海外での武力行使」を認めるか否か。その道を安倍政権下で策定した「安保法制」で切り開こうとするのが自民党、これまで通り認めないのが民進党です。すなわち、「専守防衛」に徹し戦後営々と築き上げてきた「平和国家日本」を守り抜く。ただし、北朝鮮の核・ミサイルや中国の海洋進出の脅威などからは徹底的に日本を防衛するという立場です。具体的には、領域警備法案の策定(海上保安庁と自衛隊の有機的連携の強化)や「周辺事態概念(編集注:日本の周辺地域において、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態)」の維持を前提とした周辺事態法の改正強化などでしっかり対応していきます。標語的に言えば「近くは現実的に、遠くは抑制的に」です。この点、安倍政権は「領域警備」には新たな法対応はせず、緊急時に閣議を電話で行う程度の運用改善しかしていません。
次に「原発・エネルギー政策」の違いです。これも明らかな対立軸です。原発を「基幹(中心的)電源」として推進する、原発を「安全規制基準に適合」さえすれば、どんどん再稼働させるのが自民党であり、原発を近い将来ゼロにし、再稼働についても「安全基準に適合」しているだけでなく、国が責任を持つ避難計画などがなければ反対する、そして「再生・新エネルギー立国」を目指すのが民進党です。
そして「経済政策」にも違いがあります。アベノミクスは大企業や業界を元気にすれば「トリクルダウン」(その効果が下流にしたたり落ちて)で人や暮らしが豊かになるという政策です。民進党は、経済成長も大事ですが、「所得再配分(税金の配分)」で直接「人や暮らし」に投資する。具体的には、医療や介護、年金・子育て支援などで「懐(家計)を温かく」し、国内総生産(GDP)の6割を占める消費を喚起していくことを目指します。その目玉として「教育無償化」や「介護士や保育士の処遇改善」などがあります。
「働き方改革」を典型に、最近は安倍首相の「抱きつき戦術」による「争点つぶし」で、政策面でなかなか違いが国民に見えにくくなっていますが、上記の基本政策において今後、安倍自民党との違いを鮮明に出し、国民に強くそれを訴えていくことが必要不可欠でしょう。
最後に、以前から「バラバラ」と批判されてきた党のガバナンスを確立することです。私は昔、自民党政権を官邸で支えていたことがあるのですが、自民党も結構、右から左、考え方に幅のある政党なのです。しかし、党内でいろいろ異論が出ても、自民党の場合はそれがむしろ「党の活力」と評価され、一方で民進党、いや旧民主党は、同じことをしても「バラバラ」と批判される。この違いは「『人徳』ならぬ『党徳』の差?」としか言いようのないものなのですが、私もこの党に代表代行として携わってみて、やっとその真因のようなものが分かってきました。
どの政党だって、党の方針決定までは侃々諤々(かんかんがくがく)大いに議論があって良い。しかし、いったん機関決定したらその党の方針に一致結束して従う。こうした当たり前のことを当たり前に行う「文化」を作り上げなくてはならないのです。
そのためには、その決定までのプロセスが大事なのです。一言でいえば「気配り」と「配慮」です。役員や幹部だけでなく、その政策や問題で異論のある人、要路にある人には、必ず事前に話を通す。簡単にいえば「根回し」なのですが、こうした民間でも役所でも当たり前のようにやっていることができていないのです。だから、単に「平場(会議)で議論しました」だけでは「決定」に納得感がない。人間誰しも、たとえ反対の考えであっても、事前に話を聞き、根回しされれば多少不満でも矛を収める。そういうものではないでしょうか。
しかし、この党では、これまで10人や20人の部下さえ使ったことがない人が多い、組織にいてそうした経験を積んだ人が少ないために、そうした「気配り」や「配慮」ができない。その結果、たとえ党方針を決定しても、いつまでたっても不満が充満し続けてしまうのです。こうした繰り返しが、この党の「バラバラ感」「ガバナンスのなさ」を露呈してきたのではないでしょうか。
この点、自民党には中小企業の経営者や役所の幹部を務めた元官僚など、「組織」にいた人が多くいます。また、象徴的な慣行として、自民党の最高意思決定機関である総務会の決定に反対の人は「トイレに立つふりをして席を外す」といった政治の知恵を働かせて、組織統一を図ってきたのです。こうした「懐の深さ」「したたかさ」を民進党はもっと学ばなければなりません。
そして、最後に「連合(日本労働組合総連合会)」との関係です。もちろん、民進党最大の支援組織である連合の提案や意見は最大限尊重しなければなりません。ただ、お互い別組織である以上、違いがあるのも当然で、それを前提とした(お互いの違いを認めた)うえで、もっと「大人の関係」にしていかなればならないと考えています。
「大人の関係」とはこういうことです。それぞれの核心的利益(こだわる政策など)はお互いに尊重する。それ以外の政策などについてはたとえ違いがあっても、それはそれで認める、そして互いの友好関係には影響させない。こうした連合との関係は、まずトップ同士で議論し整理する。そして明確な方針を決める。そして、それを都道府県連や地域に落としていく。そうしたたゆまぬ努力が不可欠でしょう。自民党と経団連、業界団体との関係は、ある程度こうした「大人の関係」ができていると思います。
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