日本側カードを切り尽くしてロシアに領土返還の動機付けは 生まれるのだろうか?・・・日露交渉の結末
2016年12月18日 tag:
領土問題はきれいごとでは進みません。理屈や論争でケリがつく話でもない。
これまでのロシアや北朝鮮との交渉でもわかるように、相手方が困っている時に、やっとこちら側に擦り寄ってくる。そのタイミングでしか領土や拉致問題等々「主権に係る問題」は解決できないのです。そして「困っている時」とは、往々にして「経済困窮」の場合が多い。
今回の日露交渉にも様々な評価はあるでしょう。しかし、ロシアの側に立ってみるとよくわかります。やれ経済協力8項目だ、共同経済事業だと、その「経済困窮」を救う日本側のカードを切りまくって、今後、どうしたら、ロシア側に、その意味で、領土問題を動かそうというインセンティブ(動機づけ)が生まれるのでしょうか?
普通に考えて、「これで時間稼ぎができる」「経済でしこたま利益をとってやろう」「領土問題は当面四の五の言っていれば足りる」とロシア側は思うのではないか?
カードを切り尽くしても、安倍・プーチンの信頼関係さえあれば、いずれロシアは応えてくれる、そんなロシアの「好意」にすがる「お人よし」で事態が進展するのなら世話ありませんが、私のこれまでのロシア観、ロシア人観からしても、それはあまりに楽観的、いや楽天的ではないかと思います。
【時事通信】「がっかり」「もう無理だ」=返還言及なく、元島民落胆-日ロ首脳会談
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016121600865&g=soc
【産経】自民・二階俊博幹事長「国民の大半がガッカリしている」
http://www.sankei.com/politics/news/161216/plt1612160047-n1.html
また、これは外交交渉に携わった者なら誰でも知っていることですが、今回の日露交渉で出た結果はプレス向け声明だけ、しかも、その軽い声明ですら、共同経済活動と人的交流についてだけで、領土問題については一切発出されていません。この一点だけ見ても、今回の交渉が領土交渉ではまったく進捗しなかった、いや、むしろ後退したことがわかります。
東京宣言(93年)もクラスノヤルスク合意(97年)も、首脳間のもっとレベルの高い「共同声明」でした。しかも、北方四島の帰属を含めて交渉対象でした。しかし、今回はニ島返還ですら、プーチンは認めなかった。これでこれから領土交渉が進むと考える方が不自然でしょう。
【東京】「主権返すと書いてない」と主張 プーチン氏、首相が明かす
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016121701001436.html
「共同経済活動」については、過去、ロシア側から提案があったこともありました。しかし、「平和条約問題に関する日露の立場を害するものではない」と言っても、それが不可能だったからこそ、今まで実現しなかったのです。そのためには「六法全書さらに一冊分の法律が必要」だからです。
だから、この合意は、ロシア側からすれば単なる「時間稼ぎ」でしかありません。残念ながら、この問題は、これから数年「ああだ、こうだ」と言って前に進まないでしょう。ロシアは主権を譲る気はさらさらないのですから。早速ロシア高官は「日本企業は(北方領土に進出したら)ロシアに税金を払え」と言っています。
そうなれば、この「共同経済活動」の「プレス向け声明」にかろうじて触れてある「平和条約締結の重要な一歩」という「とっかかり」すらなくなるわけです。まあ、それがロシア側の作戦なのですが。
交渉前から何度も言ってきましたが、ロシア人は「腹芸・深読み大好き人間」です。そのロシア人に「ボンボン育ち」の安倍さんが見事にだまされたというのが、残念ながら、今回の構図でしょう。
【産経】日露首脳会談 共同経済活動...「特別な制度」難航は必至
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161217-00000064-san-pol
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