シリーズ⑩/「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?!
2015年12月 7日 tag:
(注:開戦当時の記述です/拙著「小泉政治の正体」/PHP2004年11月刊より)
日米関係が、日本にとって世界で一番重要な二国間関係であり、日米安保条約を基軸とする日米同盟を堅持すべきことは当然のことだ。
私自身、橋本政権下の首相秘書官として、新しい「日米安全保障宣言」(九六年四月)や、それに基づく「周辺事態法」(ガイドライン法)、ACSA(日米物品役務提供協定)の策定等に主体的に参画してきた。日米関係や日米同盟については、誰よりもその重要性を認識しているつもりである。
そういう立場の人間だからこそ、声を大にして言いたいのだが、「日米同盟が重要だから」、イラク戦争を支持し、自衛隊までも派遣しなければならないと考える必要はないということだ。ましてや、「いざ北朝鮮の時に米軍に助けてもらわなければならないから」という議論にいたっては、論外と言わなければならない。
中曽根康弘氏が、首相当時、物議を醸した発言を引くまでもなく、日本列島は「米国の不沈空母」化しているのが現状だ。横須賀や嘉手納の基地からは、湾岸戦争時も、アフガン攻撃時も、今回のイラク戦争時も、空母や海兵隊が出撃した。おまけに、年間、国民の血税を二五〇〇億円以上も使って、米軍兵士の住宅、光熱費、従業員の給与等の「思いやり予算」もつけている。米国にとってこんなに使い勝手のいい、住み良い所もない。
米国防白書でも指摘されているように、二一世紀、米国にとって最大の脅威は中国だ。その中国、対岸の台湾、更には朝鮮半島をにらんだ戦略的要衝の地、日本列島は絶対手放せない米国の国益そのものだ。日本に「すわ一大事」があれば、米国は自分自身のためにも絶対日本を守る。韓国から兵を引くことはあっても、日本列島、特に沖縄からは絶対に引かない。こうした、日米安保は米国の国益でもあるという現実を、しっかりと認識する必要がある。
だから、イラク戦争で米国を日本が支持しなかったからといって、いざという時、米国が日本を守らないという選択肢はない。日本の政治家や外務省には、そこの視点が欠落しているから、自虐的な対米追従一辺倒となる。
また、一口に米国といっても、米国には「色々な顔」がある。現に、その米国自体が、ひたすらイラク戦争へと突き進んでいた頃とは様相を異にしてきている。
民主党の大統領候補となったケリー氏は、露骨にブッシュ大統領のイラク政策を批判しているし、米議会では、大量破壊兵器の有無を含めた戦争の正当性すら議論されるようになった。「九・一一テロ」についても、ブッシュ政権が事前に防ぎ得なかったかどうかが厳しく問われている。米軍によるイラク人虐待映像も公開された。
こうした一連の推移を受けて、最近では、イラク戦争は正しくなかったと考える米国人が、多数を占めるようになってきている。これは、ある意味で、「米国の健全性」を示している。「振れすぎた振り子は必ず戻る」という、米国民主主義の復元力を証明している。
それに引き替え、日本はどうか。血を流してまで民主主義を勝ち取った国とは違い、やはり「民主主義ですら輸入した国」の限界なのだろうか。依然として、イラク戦争や自衛隊派遣について、深い議論もなく、何とはなしに支持する風潮が蔓延している。米国民主主義は変形しても「弾性変形」の範囲だが、日本のそれは「塑性変形」で、元に戻らないのが恐い。
いずれにせよ、対ブッシュ忠誠心だけで日本が前のめりの対応をしていると、その米国自身にはしごをはずされる可能性もある。その時は、何のための自衛隊派遣かということにもなりかねない。
【バックナンバー】
シリーズ①「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
シリーズ②「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
シリーズ③「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
シリーズ④「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
シリーズ⑤「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
シリーズ⑥「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
シリーズ⑦「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
シリーズ⑧「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
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