シリーズ③「日本には『大義なきイラク戦争』への総括がない」・・・賛成・支持した政治家に安保を語る資格はあるか?
2015年10月19日 tag:
フセインを打倒することで、確かに、一時的に大量破壊兵器からの脅威は減るだろう。しかし、時がたてば我々は、地域紛争やテロが多発し、以前より不安定な、危険な世界に住んでいるということにもなりかねない。あの、世界のリーダーたる米国すらが国際法秩序を破る、「法の支配」から「力による支配」の復活だとなれば、宗教や民族を起因とする紛争を抱えている国々は、これで自分勝手な理屈さえつければ「先制攻撃」してもいいと考えるだろう。
インドとパキスタン、ロシアとチェチェン、そして、何よりも、イスラエルとパレスティナ。中東和平プロセスにおける米国の信頼喪失も痛い。私が研究生活を送ったハーバード大学国際問題研究所、その所長だったハンチントン教授が指摘した「文明の衝突」も現実のものとなるかもしれない。
大局観なきイラク攻撃がもたらした「より危険な世界の招来」。このイラク戦争では、目先の利害に目を奪われ、より重要なものを、世界は失ってしまったような気がする。私は当時、イラク空爆の音を聞くたびに、二度の大戦を経てつくりあげた国連という人類の知恵、武力行使は自衛戦争か国連が認めた場合に限るという国際法秩序が、ガラガラと音を立てて崩れさっていくのを感じていた。
こういう論陣を張ると、必ず、「あのままフセイン政権を延命させると、大量破壊兵器の製造・拡散やテロリストへの支援を行い、世界はさらに危険にさらされていただろう。戦争しかなかったのである」という議論が出てくる。他に代替手段はなかったのだからしょうがないという立場である。
しかし、当時をよく思い起こしてほしい。私は「ただ反戦」を言っているのではない。幸い、米国による状況証拠の開示や威嚇により、イラクは、渋々ではあるが、指摘されたミサイル関連施設の公開やイラク人科学者の査察団尋問に応えはじめていた。ブリクス国連監視検証査察委員長は、安保理での報告でこう述べてもいた。「査察は数日でも数年でもない。あと数ヶ月で終わる」と。そう、あと数ヶ月待てばよかったのだ。
ロシアのイワノフ外相も「武力に訴えるのは万策尽きた時にのみ可能だが、我々はまだその段階には達してはいないし、今後も達することがないことを望む。イラクの協力で、査察団は着々と仕事をこなしている。動きは正しい方向に向かっており、これを無視することはできない。査察官は査察を継続しなければならない」と主張していた。これが、イラク開戦反対派の大方の論理だったのである。
このような査察を続けている限り、さすがのフセインも身動きがとれなかっただろう。当時、独仏による国連軍による査察強化の提案もあった。これまで、イラクの傍若無人振りに対して十数年間我慢できたことが、なぜあと数ヶ月できなかったのか。数ヶ月査察を続けて、それでもフセインが欺まんを続けていたら、その時こそ、「国際社会の総意」(国連決議)を形成し、武力行使をすればいい。フランスやロシア、ドイツもさすがにその時は矛先をおさめたと思うが、仮にそうでなくても、国際社会の大義は米国にありということになっていたのではないか。
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