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シリーズ「安保法制」・・・①国際法にいう「集団的自衛権」とは?

2015年6月 1日  tag:

 我が維新の党も、安全保障環境の変化、特に、核・ミサイル技術の進展、それに伴う軍事オペレーションの変容等に応じて、国民の生命・財産を守る、領土・領空・領海を守ることに万全を期していくことは、政治の一番の責務だと考えている。


 しかし、この「安保法制」については、国民の多くが、これまでの「平和国家日本」「専守防衛」の国是を根本から変えるものではないかとの疑念、不安を強く抱くに至っている。したがって、今後の国会審議においては、政府案の問題点を徹底的に洗い出し、維新の党の独自の対案をぶつけながら、国民の不安や疑念を払しょくするため、「平和憲法」の理念、「専守防衛」の観点から、自衛隊の海外派遣、海外活動に対し、しっかりと「歯止め」をかけていかなければならない。


 そして、その際には、情緒的な議論ではなく、これまでの憲法解釈や国際法、国際司法裁判所の考え方を含め、それとの「論理的整合性」や最高法規たる憲法の「法定安定性」を担保しながら、政策論だけではなく、憲法論、法律論を展開していく必要があるだろう。およそ、法律案の制定や改正には、「立法事実」(それを支える社会的経済的政治的もしくは科学的事実)に基づいて、その必要性、合理性、正当性を証明していかなければならない。こうした国政の根幹に係る最重要法案については尚更のことだ。


 こうした基本的な考えに基づき、以下、法案の論点について、シリーズで考察していきたいと思う。まずは、集団的自衛権の限定容認の要件、基準とされる「存立危機事態」についてだ。
 

 最初に、「個別的自衛権」、「集団的自衛権」という概念について、国際的なスタンダードに照らし、いかに日本でしか通用しない議論がまかり通ってきたかを説明しよう。この概念については、世界の国際法学者が常に参照する、国際司法裁判所による「ニカラグア事件判決」(1986年)というものがある。この判決は、「集団的自衛権」という概念を、公権解釈として初めて示したという意味で、極めて重要な判決とされている。

 
 この判決では、「個別的自衛権」とは、「自国を守る」ための権利であり、「集団的自衛権」とは、「他国を守る」ための権利とされている。当然のことのように思えるかもしれないが、実は、日本政府がこれまでとってきた概念設定とは異なっているのだ。すなわち、日本政府は、「自国が攻撃」された場合、それに反撃する権利を「個別的自衛権」とし、「他国が攻撃」された場合、それに反撃する権利を「集団的自衛権」としてきたのだ。文章で書くとわかりにくいだろうから、図1に示す。


(図1)
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 その違いは、国際司法裁判所や国際法学会の通説では、他国が攻撃されようが、自国が攻撃されようが、それは「契機」「現象」にしかすぎず、その後の事態の推移により、それが「自国を守るための武力行使」であれば個別的自衛権とし、「他国を守るための武力行使」であれば集団的自衛権とするのだ。すなわち、「集団的自衛権」とは、刑法で言えば、「正当防衛」の「他人を守る権利」に相応するものとされる。


 日本政府のこれまでの定義では、図2の「死活的利益防衛説」、すなわち、「他国への攻撃で自国の死活的利益が害された場合に武力行使」するのも「集団的自衛権」とされるが、これは少数説であり、国際司法裁判所や国際法学会の通説では、これは「個別的自衛権」の範疇とみなされる。


 (図2)
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 以上の理解の下に、今回の安保法制で定義された「存立危機事態」の三要件は、図3のように、あくまで「自国を守る」ための権利であり、これは、すなわち、国際司法裁判所や国際法学会の通説に言う「個別的自衛権」に他ならないのである。


 (図3)
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 では、なぜ、安倍首相は、こうも「集団的自衛権」という文言にこだわるのか。それは、彼一流の「歴史に名を残したい」という一心からではないのか。
昨年7月の閣議決定でも、その8ページにもわたる文章の中で、「集団的自衛権」という言葉が出てくるのは一か所のみ、しかも「主文」ではなくて傍論的なところに「国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合がある」と書かれているだけだ。閣議決定後の会見でも、安倍首相も「集団的自衛権が現行憲法の下で認められるのかといった観念論ではなく」「新三要件は今までの三要件と基本的考えはほとんど同じ」とも述べている。まさに「名」をとって見事に「実」を捨てた格好なのである。

(次週に続く)

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シリーズ「安保法制」・・・②「個別」と「集団」。その自衛権概念の相対化