シリーズ「安保法制」・・・②「個別」と「集団」。その自衛権概念の相対化
2015年6月 8日 tag:
国際法に言う「個別的自衛権」と「集団的自衛権」の概念については先週、詳しく述べた。この問題につき、これまでいかに日本だけでしか通用しない概念設定がされてきたかについても指摘した。
今週は、この二つの概念が、その外縁で重なり合う、すなわち、近時の核・ミサイル技術の進展と軍事オペレーションの変容に伴い、その概念の区別が相対化してきたことを説明しよう。
具体的な事例で考えればわかりやすい。日本海に浮かぶ米艦船への攻撃を取り上げる。図1を参照してほしい。
図 1
通常兵器しか持っていない時代。米艦船が日本海に展開している時、朝鮮半島から「対艦砲」の弾が当たったとする。その米艦船を日本の軍隊が助けにいくのは、明らかに「集団的自衛権」の行使である。なぜなら、その大砲の弾は日本まで届きようがなく、日本攻撃の危険性はその時点では全くないからだ。
しかし、現代、すなわち、弾道ミサイルの時代ではどうか。米イージス艦が、日本防衛でも警戒監視の目的でも日本海に展開している時、北朝鮮から「短距離ミサイル」による攻撃を受けたとする。このようなケースでは、当然、在日米軍基地からの猛反撃を受けることは容易に想定できるので、ノドンミサイルが200発以上日本に向いているという現状の下では、当然、北朝鮮は日本本土に対しても、同時にミサイル攻撃を仕掛けてくるか、そうでなくても、いずれ攻撃をしてくる危険、その蓋然性は極めて高いと言えよう。そう、日本への攻撃が切迫している事態と言ってもいい。
こうした時に、指をくわえて「坐して死をまつ」わけにはいかない。その米艦への攻撃を排除しなければ、日本への武力攻撃が発生するか、その明白な危険が切迫しているのなら、日本は、国民の生命、領土・領空・領海を守るため、自衛権を行使しなければならない。
この点につき、過去、秋山内閣法制局長官(2003年5月16日/衆院安保委)も、「わが国を防衛するために出動して公海上にある米国の軍艦に対する攻撃が 、わが国に対する武力攻撃の端緒、着手として判断されることがあり得る」としている。従来の政府の解釈の枠組みの中でも、そうした答弁をしてきたのである。
維新の党は、その意味で、我が国への武力攻撃が「切迫」している場合、または、その「着手」と認められる場合は、その限度で「自衛権」の発動を認めるのである。
こうした議論は、何も維新の党だけがしているのではない。国際法の権威、東大大学院 の中谷和弘教授も、その論文(村瀬信也編「自衛権の現代的展開」)で、「(集団的自衛権と個別的自衛権は)現実には、その区別が相対化される場合がある」としている。まさに、「日本を守るために派遣された公海上にある米国艦船への攻撃」「発射直後の上昇段階にある弾道ミサイルを送撃」等を例にあげ、「個別的自衛権として位置付ける可能性を排除していない」「日本の領土・領海上空を頭越しに飛行するなど領空侵犯の蓋然性がある場合には、個別的自衛権の行使の対象となる事態からアプリオリに排除すべきではない」としているのである。
以上のように、維新の党の見解は、図2に示すとおり、その両概念の重なり合う部分、その限りにおいて「自衛権の行使」を認める。従来の政府の必要以上の狭い「個別的自衛権」の解釈では、一見、「集団的自衛権」に踏み込むように思われるかもしれないが、それはあくまでも国際標準にあわせた、適正化された「個別的自衛権」の範囲内で認める、その限りにおいてしっかり「歯止め」をかけるという考え方なのである。そうすれば、先週の憲法審査会で憲法学者が「違憲」と断じたような、従来の憲法解釈との「論理的整合性」を欠き、「法的安定性」を大きく揺るがす、ことにはならない。
図2
そして、それは、「武力攻撃」または「それが切迫している場合」だけに認め、経済的要因では認めない。なぜなら、国連憲章51条も「昭和47年法理」も、あくまで「武力攻撃」概念で規定されており、ホルムズ海峡の機雷掃海のように、それがいかに経済的な要因で日本に死活的影響があろうが、「自衛権」概念では到底、包摂できないからである。
(参考1)国連憲章第51条〔自衛権〕
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した 場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。
(参考2)いわゆる「昭和47年法理」
自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な 自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。しかしながら、(略)それは、あくまで外国の武力攻撃によって国民の 生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための 止むを得ない措置としてはじめて容認されるものである(略)。わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られる(後略)。
シリーズ「安保法制」
①国際法にいう「集団的自衛権」とは?
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