アベノミクスをはじめ政権運営は順調そうにみえる。その結果、国民の支持率も高いわけだが、やはり、安倍政権も自民党政権ということで「改革の本気度」という意味で懸念される点が多い。
それは簡単に言うと、本当に「既得権益の打破」と「地域主権」「公務員制度改革」ができるのか、ということだ。前者では、自民党の支持基盤である農協や電力等の猛烈な抵抗に遭う。後者では霞が関官僚、そのバックにいる族議員たちの執拗な反撃をくらう。こうした「抵抗勢力」の壁を打ち破って、安倍首相に、この「国のかたちを変える」だけの決意と覚悟があるのか。
先週金曜日(3/8)、私は予算委に立って、こうした懸念を払しょくする大胆な答弁を安倍首相に求めたが、残念ながら、終始、奥歯にモノがはさまっているような曖昧な答弁に終始した。
さて、こうした課題については、また来週以降論じていくこととして、そこでも質したテーマに「TPPの参加問題」があった。先の日米首脳会談で、遅きに失したとはいえ、とにもかくにも安倍首相が「参加」の決意を固めたことは評価していい。これで、ここ数年間にわたった「参加するしない」の不毛な争いにようやく終止符が打たれた。
そもそも過去に、こんな「参加するしない」の問題がここまで大きな政治的イシューになったことはなかった。「牛肉オレンジ交渉」の時も、「ガットウルグアイラウンド交渉」の時も、参加は政府の判断で行い、交渉が妥結寸前までいき、協定を署名する、批准する、そうした段階になってはじめて国論を二分する議論になったのだ。そういう意味でも、前民主党政権の罪は重い。
たしかに、日米首脳会談での「共同声明」は当たり前のことを確認したに過ぎない。読んでみても「交渉参加の時点で一方的に関税撤廃を迫られることはない」「センシティブな問題は交渉の中でその扱いは決められる」。要は、今後の「交渉次第」というこだ。そして、本来、マルチ(多国間交渉)とはそういうものだ。ただ、こうした文書にすることで、こうしたシナリオを書くことで、自民党内の反対を抑え込もうという手法だろう。
これまでのTPPをめぐる議論は、こうした通商交渉、国際交渉のABCも踏まえないものが横行していた。中には、FTA等の二国間交渉の方が良いといった議論もあった。しかし、少し考えればわかることだが、より国力、力関係が反映されるのは二国間交渉の方だ。二国間は「何でもあり」の世界で、そこには二国間の力関係が如実に反映される。
私が実際に携わった「日米自動車交渉」では、「いついつまで米国製部品を日本車の何%まで含有できるようにしろ」とか、「何年までに米国車を扱う日本ディーラーの数を何店舗まで増やせ」とか、自由・市場主義経済に真っ向から反する「数値目標」を要求してきたものだ。この時は、幸い、受け入れれば同じ運命をたどる東南アジアやEU諸国の賛同を得て、そうした米国の理不尽な要求をはねつけた。
ことほど左様に、マルチなら、正式な交渉の現場で他の国との共闘もできる。また、日本のような主要な国が最後まで反対なら協定そのものができない。マルチというのは、ある意味では、「例外」をめぐっての熾烈な交渉とも言えるのだ。
WTOドーハラウンドがなぜ、2008年に頓挫したのか。当時、百数十カ国が賛同し妥結寸前までいったが、セーフガード(緊急輸入制限)を巡るインドと、発展途上国に優遇を求める中国の反対で、それまでの膨大な交渉努力が水泡に帰したのだ。そう、マルチとはそういうものなのだ。
今は、そのドーハラウンド決裂をうけて、地域ブロック単位で、世界のあちこちに「自由貿易・投資クラブ」が生まれているのが実情だ。TPPもそうだし、ASEAN+3、ASEAN+6(今は「東アジア地域包括経済連携構想」=「RCEP」に発展)もそうだろう。米州やEUでも同様だ。
資源に乏しく、すぐれた人材と技術でしか生きていけない日本。それらを世界に自由に往き来させ、付加価値を生み、新製品を創造して、それで喰っていくしかない国民なのだ。こうした「クラブ」には、保険をかけてどこにでも「顔を出しておく」ことが必要不可欠だ。なぜなら、将来、どの「花」が咲くかわからないし、富士山でもどの「登り口」が一番早く頂上に到達できるのか、今はわからないからだ。
そういう意味では、今回の安倍首相の「参加表明」は遅きに失した。TPPでは「3.5.9」という数字が大事となる。そう、今、シンガポールでまさに行われているが、この数字は、TPP交渉の実務者会合の開催月を表す。ご承知のように、米国には「90日ルール」がある。米国が新規参加国を交渉に迎え入れるためには、米国議会に90日前までに通知しなければならない、すなわち、日本が実際に交渉参加するためには、その三カ月前までに日米での「参加合意」が必要になるのだ。
と言うことは、今週、安倍首相が正式に「参加表明」しても、実際、日本が交渉に参加できるのは、5月ではなく9月ということになる。TPP交渉は、一応、建前上「今年中、できれば10月のAPECバリ会合で妥結」ということになっているから、本当にそうなら、9月から日本が参加しても「はい、これまでの交渉ドキュメントはこれです」と渡されて、翌月には妥結ということにもなりかねない。であれば、日本の国益を反映させる、主張を盛り込むことも実際上できなくなるだろう。したがって、少なくとも交渉参加なら、5月の会合を6月に延ばすとか、5月と9月の間にもう一回、7月に実務者会合を入れるとか、そういった政府の交渉が今後大事になる。
また、今回、日米という、TPPの主要なプレイヤーが、農産品であれ自動車であれ「センシティビティー」に言及したことで、逆に「高いレベルの自由化」が実現できなくなる懸念も出てきた。既に参加済みのベトナムには「二輪車」等で100%近い関税があるし、マレーシアには「政府調達」で「ブミプトラ(マレー人優遇政策)」がある。「蟻の一穴?」で、これまで我慢してきた「例外扱い」要求が怒涛のように出てくる可能性もあるからだ。
我がみんなの党は、TPP参加でも、私が予算委でも説明した「農業再生策(平成の農地改革)」とセットであれば、農産品といえども「例外扱い」しなくてよいという立場だが、そうした「高いレベルの自由化」が実現できないと、そもそも他の「自由貿易・投資クラブ」と比較して、TPPの存在意義そのものが怪しくなってくる。
TPP交渉はまさにこれからが正念場だ。みんなの党として、しっかり、安倍政権のお尻を叩いて、あらまほしき「アジア太平洋地域の自由貿易・投資の枠組みづくり」に貢献していきたい。
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