たしかに野田政権の「国家戦略会議」は7月中旬、2020年度までの成長戦略である「日本再生戦略」の原案を発表
した。だがこれも「官僚の作文」の域を出ない。
そこには、医療や介護、健康関連分野で規制緩和によって50兆円規模の新市場を創設し、「2020年までに年平均で
名目3%、実質2%」の経済成長をめざすことが明記されているが、成長に至るまでの具体的な手段、工程表はまったく
示されていない。そもそも、これから増税によって成長それ自体にブレーキをかけようというのに、よほどドラスティックな
改革でなければ、成長などとうてい達成できるものではない。
ほんとうに経済成長をめざそうとするならば、民間主導で実物経済を動かさなくてはいけない。原点に返れば、経済は「資本」「労働力」「技術革新」の三要素で成長していく。このうち「労働」に関しては、少子化であまり期待できないが、「技術革新」については重点投資で促進し、「資本」については規制の抜本改革で設備投資の活性化を図る。
たとえば、将来の成長分野の一つに、農業が挙げられる。いまは「農業生産法人の役員の半分以上は常時、農業に
従事する人でなければならない」「農地は農業生産法人しか取得できず、株式会社は借りることしかできない」といった
規制があり、同時に農協の既得権が守られているため、新規参入が難しい。この障壁を取っ払い、株式会社やNPOが
参入できるようにするのだ。
同時に、減反制度(米価を維持するための需給調整)も廃止し、競争による効率化、生産性向上を図る。そうすれば
必然的に、土日だけ狭い農地を耕しているようなサラリーマン兼業農家から、専業、大規模農家に農地の集約化が進む。
ただし、需給調整の廃止で米価は急落するので、一時的に所得が減った分については税金で補償する。
つまり、大規模、専業農家を中心に「頑張る農家」はしっかり応援するのだ。ここがのべつ幕なし、すべての農家に税金をばらまく民主党の「戸別所得補償制度」とは違う点だ。
米価が下がれば、「おいしい」「品質が良い」と、そうでなくても中国の上海や北京、シンガポール等で日本の米が飛ぶように売れている現状に鑑みれば、将来、十分、輸出産業としてやっていけるだろう。
エネルギー分野も成長可能性を秘めている産業だ。現在、電力事業は地域独占で行なわれているが、ここでも規制
を撤廃し、かつ、発送電分離で新規電気事業者をどんどん参入させていく。現在、PPS(特定規模電気事業者)という
小規模の電力会社が全国で45社ほどあるが、送電線を借りるために法外なお金を払わされるなど、さまざまな苦労をしている。これらを改善するだけでも新規参入は加速する。家庭への配電も可能にする。市場で競争が進めば、電話・通信分野でそうであったように、電力料金も下がるだろう。
いま原発の是非をめぐって国論が二分しているが、原発事故賠償のリスクや廃棄物処理、廃炉までを考えれば、もはや原発は「安い電気」とはいえなくなっている。おまけに安全でもないとすれば、電力自由化を行なえば、原発は市場の中
で自然に淘汰されるにちがいない。
そのほか、福祉や教育といった分野も同じく、規制を一つひとつ取り払い、新規参入を促せば、経済成長の牽引力と
なろう。ただし、規制をただ「緩和」するだけでは、利益のあがらない会社が簡単に事業をあきらめて撤退する可能性が
ある。一度覚悟を決めて参入したら、たやすく退出できないような仕組みをつくることも重要だ。だからこそ、たんなる
「規制緩和」ではなく「規制の抜本改革」なのである。
これら改革、既得権益の打破なくして、日本経済の成長はありえないし、経済成長で税収を上げなければ財政再建も
実現しない。
(VOICE9月号に掲載された江田インタビュー記事)
※江田けんじの拙著「財務省のマインドコントロール」はこちら
数字の辻褄合わせ」増税は破綻を招く①・・・月刊誌「Voice」九月号(PHP研究所)より
数字の辻褄合わせ」増税は破綻を招く②・・・月刊誌「Voice」九月号(PHP研究所)より
数字の辻褄合わせ」増税は破綻を招く③・・・月刊誌「Voice」九月号(PHP研究所)より
数字の辻褄合わせ」増税は破綻を招く④・・・月刊誌「Voice」九月号(PHP研究所)より
数字の辻褄合わせ」増税は破綻を招く⑤・・・月刊誌「Voice」九月号(PHP研究所)より
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