財務省は、消費税5%アップで13.5兆円の税収増を見込んでいるが「獲らぬ狸の皮算用」だ。デフレで景気が悪い時に増税すればさらに景気が悪化し税収はむしろ下がる。これが「歴史の真実」だ。
97年、消費税を3%から5%に上げた時、54兆円あった税収はその後の不況で今では42兆円になっている。増税時の
税収を一度も上回っていない。
こうした私の指摘に対し、野田首相や財務省からまともな反論がきたことは一度もない。「累積債務をこのまま放って
おくわけにはいきません」「社会保障を持続可能なものにする必要があります」と繰り返すばかりだ。実際、これまで
テレビや雑誌の企画で、安住財務相や藤井裕久元財務相に公開討論を申し込んでも断られてきた。そして、多くの人
が財務省の思惑どおりに、増税こそが財政再建への真の回答だと思ってしまっている。
この「財務省言いなり」の象徴的事例が、消費増税による税収増を1%あたり2.7兆円、5アップで13.5兆円と見込んで
いることだ。過去の消費税収をみると、1%あたりの税収はつねに2.5兆円前後であり、2.7兆円を超えた年など一度もない。つまり、水ぶくれした数字を前提に、「○○%は子育て支援」「○○円は社会保障」などと割り振っているのだ。どんなに
うまくいっても2.5兆円×5=12.5兆円増で、1兆円ほど足りない。「社会保障と税の一体改革」なるものの基礎中の基礎、
その大前提が崩れているのに、誰もそれを指摘しないし、メディアも報道しない。
なぜ政治家は、一省庁にすぎない財務省の言いなりになってしまうのか。その原因は、財務省のもつ「アメ」と「ムチ」にある。
まず「アメ」は予算編成権、つまり予算分配の権限を握っていることだ。政治家はだいたい「地元に橋をかけたい」「道路をつくりたい」と考えており、財務省から予算を割り振ってもらわなければならない。そのため、局長はおろか課長・課長
補佐級にまで、政治家側から出向いて頭を下げているのが現状だ。通常の関係からいえば、政治家が役人を呼びつける
立場なのだが、財務省だけは例外なのである。
財務省としても、自分たちが差配できる権益を多く握り、天下り先を確保することで、かつての大蔵官僚が享受した「大蔵一家」(天下りで80歳まで人生安泰システム)を復活させることを最優先で考えている。そのため、政治家や財界に恩を与える。
おそらく今回の国土強靭化法案のような"シロアリのエサ"についても、自民党の派閥領袖に「黙認するから、その代わりに増税案を通してほしい」と、裏約束をとりつけているはずだ。財務省はよく「財政規律を追求する我々がそんなに強力なら、借金がこんなに積み上がってはいない」と強弁するが大ウソだ。このような政治家と財務省の貸し借り勘定の結果が、1000兆円にまで積み上がった財政赤字なのである。
(VOICE9月号に掲載された江田インタビュー記事)
※江田けんじの拙著「財務省のマインドコントロール」はこちら
数字の辻褄合わせ」増税は破綻を招く①・・・月刊誌「Voice」九月号(PHP研究所)より
数字の辻褄合わせ」増税は破綻を招く②・・・月刊誌「Voice」九月号(PHP研究所)より
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