野田首相や財務省は口を開けば、「国の借金は1000兆円でGDPの二倍。このままいくと財政破綻、だから増税は待ったなし」と、何とかのひとつ覚えのようなことしか言わない。
しかし、財政学や経済学の教科書を紐解いても、政府の長期債務のGDP比率が何%を超えたら臨界点に達し発散するというような基準はない。日本は今200%だが、これよりはるかに低いアルゼンチン(63%)やエクアドル(101%)は破綻したし、戦後の英国は他の時期を含め、280%もあったが破綻していない。
要は、債務(借金)の質、その中味を見なければならないのだ。上記破綻国はいずれも、外貨建て債務や外国資本への依存率が高かった。通貨の信認が落ちると、途端に外国への元利払いが急増して破綻。一方、日本はご承知のように、国債の95%は内国民保有である。ここが基本的な違いだ。
ただ、これだけではない。そうした債務(借金)を、その国の経済や財政のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)で支えきれるか、が次に検証されなければならない。それが、私がいつも使う「日本の支払い能力」のパネル(下図参照)だ。
これは財務省が過去(2002年)、日本国債の格付けが下げられた時に、その外国格付け会社へ反論した諸条件、データ(財務省HP参照)を使って、今の日本のファンダメンタルズもまだまだ「強固」と結論づけたものだ。海外純資産は250兆円で世界一、外貨準備は100兆円で世界2位、経常収支は17兆円の黒字計上、個人の金融資産は1500兆円になんなんとしている、といった具合だ。
さらに、この時、財務省は以下のような反論もしている。「ところで貴社は、日本の政府債務が『未踏の領域』に入ると
主張しているが、巨額の国内貯蓄の存在という強みを過小評価しており、また、戦後初期の米国はGDP120%超の債務を抱えていたし、1950年代初期の英国は、同200%近くの債務を抱えていたという事実を無視している。また、貴社の格付けは、日本政府の債務支払い能力に対する市場の信頼を反映した低い実質金利とどのようにして整合性をとっているのか説明がされていない。貴社の分析がマクロバランスを十分反映させていないことについては、市場関係者、エコノミスト
からも批判がある」。
何度も言う。これは私の主張ではない。財務省が公式文書で対外的に主張しているのだ。そして結論づけている。
「日本のファンダメンタルズは強固でまったく問題ない」。国内では「大変だ!大変だ!」と財政危機をあおり増税を迫る。一方で、国外には「まったく問題はない」と財政の健全性を訴える。これを財務省の「二枚舌」と言わずして何と言おう。
野田首相や安住財務相は、この点を私が国会で質すと「それは10年前の話」と逃げるが、10年前と今とでは、その数値は改善こそすれ悪化していない。対外純資産は175兆円→252兆円、外貨準備は50兆円→100兆円といった具合だ。しかも、財務省自身が主張している「日米などの先進国の自国通貨建て国債のデフォルト(債務不履行)は考えられない」というのは財政金融「理論」であって、10年の時日の経過によって変わるものではない。これでどうして、日本の国債が今
にも暴落して金利が急上昇、経済や財政が破綻してしまうのか、私にはまったく理解できない。
さすがに市場は正直だ。歴史的な円高が進み、日本国債は超人気で価格が上昇して史上最低の金利(0.9%割れ)、日銀が市場から国債を買い入れようにも、銀行が売ってくれず「札割れ」が起こっている状況だ。いくら、ユーロ危機や
米国経済の不況でより安全資産の円や日本国債にマネーが流入している側面があるにしても、誰が破綻寸前の国の
通貨や国債を買うだろうか?
また、国債の暴落は予告なしに急に来る、比率は小さくとも外国投資家が売り浴びせれば、それを契機に暴落は起こりうる、といった脅迫もされる。たしかにそうした行動がとられる可能性はあるだろう。しかし、そこは95%が内国民保有という強みだ。それにつられて日本の銀行や生保が国債を投げ売りすれば、一番大損をするのは当の金融機関だろう。多少の「ちょっかい」にも「自らの首をしめることはしない」。
要は、いつ来るかわからないような国債クラッシュを心配するよりも、今、そこにある危機(デフレ経済、震災・原発事故、ユーロ危機)に向き合え、と私は言っているのだ。「増税の前にやるべきことがある!」、野田政権や財務省、それに歩調をあわせる自民党、公明党は、国政の優先順位を完全に間違っている。
※江田けんじの拙著「財務省のマインドコントロール」はこちら
【今週の直言】
シリーズ/財務省の増税マインドコントロールを暴く!・・・①「財務省がそんなに強ければ、こんなに財政赤字は膨れ上がってはいない」
シリーズ/財務省の増税マインドコントロールを暴く!・・・②「歳入庁構想、自民・財務省の連合軍に見事に葬り去られる」
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