歳入庁構想は、自民党・財務省連合軍により、3党修正協議の過程でみごとに撃ち落とされた。と言うか、この協議
には、財務省出身の「過去官僚」政治家たちがここぞとばかりに顔をそろえていたから当然と言えば当然だろう。
具体的には条文は次のように修正された。政府民主党の提案は、歳入庁設置に向けて「本格的な作業を進める」
だったが、合意では「歳入庁その他の方策の有効性、課題等を幅広い観点から検討し、 実施する」と修正された。
字面からしても違いが明白だが、「官庁文学」の世界では、さらに手の込んだ細工もされている。「歳入庁その他の
方策」と書かれ、「歳入庁その他方策」とは書かれていないことだ。
この「その他の」と「その他」で「の」一字が入ることで意味が全然違ってくる。法律を作ったことのある者にとっては常識の類だ。前者は、あくまで歳入庁は例示の一つであり、それを検討することすら義務づけられない。後者だと、すくなくとも歳入庁そのものを検討することは義務付けられる。いずれにせよ、検討した結果「ダメ」という結論を出せる点は同じだが、前者の方が用意周到、歳入庁を阻止できる確率が格段に高まるのだ。
国税庁は財務省の「権力の源泉」だ。これが歳入庁となり財務省から分離・独立することは絶対認められないというのが財務省の立場である。現に、橋本政権時代、橋本首相が国税庁の分離を提案したことがあったが、大蔵省幹部や大蔵省出身の総理秘書官のあわてぶりは尋常ではなかった。秘書官などは「総理、そんなことを本当にやっていいと思ってるんですか!」と血相を変えて喰ってかかっていた。この時は、歴代自民党税制調査会長を大蔵省がすべて迅速かつ周到に根回しして、瞬時に葬り去ったものである。
財務省の表向きの理由は、「小口の保険料を集める年金機構と、巨額の脱税まで追う国税庁の業務の性格が違い
すぎる」とか、「税制の企画立案を担う主税局とその執行の国税庁は同じ組織内にあるべき」とか、果ては「年金機構
のような自治労が強い組織の職員を徴税にかかわらせれば税を集める機能がガタガタになる」とか。
しかし、歳入庁は、税金と社会保険料を一体徴収することで、窓口一本化という国民の利便性にも資するし、なによりも、地方の徴税部門まで統合すれば人員整理等の行革にもつながる。共通番号制をあわせ導入すれば、税金や保険料の徴収漏れや未納問題にも対処できる。まさに一石三鳥の方策なのだ。世界では、米加英北欧諸国が既に導入して
いる。民主党やみんなの党が「政権交代選挙」で公約していたが、財務省と一心同体の自民党が強く反対していた。
なぜ、政治家やメディア、識者といわれる人たちが、一官庁でしかない財務省の言いなりになってしまうのか。拙著
「財務省のマインドコントロール」にも書いたが、まさにこの「税務署がこわい」に尽きる。政治家も大物政治家になれば
なるほど「脛に傷を持つ」人が多い。メディアも会社だ。多かれ少なかれ「うしろめたいこと」がある。識者も経費でどこまで
落とすか、付け込む隙がある。税の査察権、調査権というのは政財メディア等に隠然たる影響力があるのだ。
最近も、唯一増税反対を社説に掲げる東京(中日)新聞が大々的な査察を受けて修正申告させられた。増税反対や
脱官僚を訴える識者の事務所も同じだ。交際費の伝票を一枚残らず洗われることなど日常茶飯事なのだ。私の場合、
国会議員の歳費以外に、若干のテレビ出演料や講演料、原稿料等があるが、確定申告の時は、あえて「経費ゼロ」で
申告し、追加的に税金を納めている。用心に越したことはない。
国政にでるということは、もちろん、政策も大事、覚悟や信念も大事だろう。しかし、現実問題、一番大事なことは
「身ぎれいにすること」だ。そうじゃないと、どこの政党、政治集団、政治家でも一気に潰される。
【今週の直言】
シリーズ/財務省の増税マインドコントロールを暴く!・・・①「財務省がそんなに強ければ、こんなに財政赤字は膨れ上
がってはいない」
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