先週、久しぶりに予算委に立った。どうも、最近、あまりやる気が起きない。それもこれも、打てば響くどころか、生産的な議論が、今の野田首相や閣僚とできないからだ。特に安住財務大臣はひどい。
そこで、今回は、趣向を変えて、財政の基本的な事柄について質問した。一体、どういう認識で「消費税増税」を国民に訴えているのか、それがどの程度のものなのか、試してみたかったからだ。
まず、野田首相が昨年秋の所信表明演説で「今日生まれてくる子供一人の背中には700万円を超える借金がある」
という意味を問うた。これは、単純に日本の債務を人口で割った数字だが、なぜ、同時に「500万円の預金通帳を手に
生まれてくる」と言わないのか。フェアーではないのではないか、ということだ。
国民の中には「え?赤ちゃん一人が700万円の借金?」と驚く人も多いだろう。だから、増税しなければならないのだ、と。そう、要はこれも、財務省による「増税キャンペーン」「財政破たんプロパガンダ」の一環なのだ。都合の良い数字だけ「つまみ食い」して国民の不安をあおる。
日本の借金はたしかに世界一だが、その資産も世界一なのだ。そういう実態をしっかりあぶり出すために、数年前から、国のバランスシートを作成して公表している。2010年度の場合は、資産が778兆円、負債1135兆円だ。
その差額を「純債務」といい、これが357兆円あるから、私もどうでも良いとは言わない。しかし、今の水準が、このデフレで景気が悪い時に、それに大震災と原発事故が追い打ちをかけている時に、何が何でも増税と息巻くほどの水準とは
とても言えないだろう。
トヨタだって、ソニーだって、負債だけ取り出せば、それぞれ19兆円、10兆円だ。それを大変だ、大変だなんて言ってる人はいないだろう。同時に、30兆円、13兆円の資産があるからだ。国も同じだ。
極め付きは、また安住大臣の発言だった。「生まれてくる子供が現金を持って生まれてくることはないと思います」。
もう、あほらしくて笑うしかなかった。それなら、野田首相が言う「背中に背負って生まれることもないわけだ」。さすがの
財務官僚も「苦虫をかみつぶしている」のではないか。この前は、為替介入の具体的なレートまでばらしてしまったし。
それは即、通貨マフィアから相手にされなくなることを意味する。
「日本の借金は1000兆円でGDPの2倍」とも言う。これも財務省の口癖で、メディアもあちこちで撒き散らしているセリフだ。しかし、このストック(蓄積)の借金の数字を、フロー(単年度)の数字で割ることにどんな意味があるのだろうか。
それを、国民に分かりやすく説明してもらいたいと思って質問したが、「国際的に採用されている指標」だとか、「借金が
それほど多いということ」とか、財政学的、経済的な意味合いについての説明がされることはなかった。
要は、こうした一面的な見方、皮相的な数字だけを取り出しても、一国の本当の財政状況や経済の実力は説明できないのだ。だからこそ、バランスシート的な、重層かつ多面的な分析が必要とされるのだ。
日本の経済や財政のファンダメンタルズは下記のパネルのとおりであり、それは、財務省が対外的に説明していることだ。「それは10年前のこと」と抗弁しても、当時よりもそこに掲げられた数字は改善している。例えば、対外純資産は175兆円→252兆円、外貨準備は4000億ドル→1兆ドル超。その意味では、ファンダメンタルズはより強固になったということも
できるのだ。
結局のところ、なぜ、「増税しないと財政破たん」なのか?借金が1000兆円を超え、GDPの2倍ということしか聞けなかった。こんな議論をすると、じゃあ、1倍は良いのか、2倍ならだめなのか、日本より比率が低い国がなぜ財政破たんするのか、そうしたことが一切説明できなくなる。首相は、政治家は、もっと、大きなパースペクティブの下に、諸般の指標を総合的に判断しなければいけない。
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