原発賠償スキームの迷走・・・一家庭30万円の電気料金値上げ
2011年5月23日 tag:
先週の直言で、「東電賠償スキーム」の先送りの可能性と、その背景を指摘したら、早速、民主党政権から、そうした発言が飛び出してきた。まさに、この政権にいつも付きまとう、誰が意思決定しているのか、政府内、党内議論は尽くされているのか、口先だけで実行する覚悟があるのか、といった問題が、この局面でも露呈してきたということだろう。
政府案のポイントは、極秘に政府内で検討された資料によると、①東電は5年で10兆円の賠償を行う、②その原資は、25年かけて東電他電力会社が負担する毎年4000億円(東電2000億円、他電力2000億円)の負担金で賄う、③政府は、機構への交付国債(10兆円)や融資への債務保証で支援する、④株主責任、貸し手責任、社債権者の責任は問わない、⑤最終的には電気料金値上げ(東電管内30万円、他電力管内1~4万円/25年間)で国民が負担する、とされている。
そして、この前提には、東電の上場維持(自己資本比率10%以上で債務超過にはしない)、発送電一体・地域独占という事業形態の存続がある。社債発行も15年度から7000億円規模で再開し、株主配当も18年度から行うとされている。このスキームが「東電救済」「国民が最後は尻拭い」と批判される所以だ。
考えてみれば、全体の賠償額が10兆円にものぼり、東電自身が「支払い能力を超えている」と認めているのだから、東電は実質上債務超過で破たんしていると言っていい。賠償に全きを期するためには、東電の徹底的なリストラ、株主責任や貸し手責任を問うのは当然だろう。その意味で、政治の決断で、特別立法で、「一時国有化」を含む、大胆なスキームを打ち出すべきだろう。そして、そこに、将来的な電力の再編・自由化、それによる電力の需給構造の安定化と転換、ひいては日本経済の再生も織り込む。
しかし、先週公表された東電の3月期決算によると、大胆なリストラ策(資産売却等で6000億円、経費削減で5000億円)と名打ってはいるが、まだまだ足りない。会社更生法を適用したJALの場合、OBを含む年金や退職金の大幅減額、16000(1/3)の人員整理、事業効率化等を断行した。一方、東電は、我がみんなの党・中西けんじ参院議員の予算委(5/13)での質疑で、東電社長は「退職金や年金の減額は現時点で考えていない」と答弁した。お話にならない。
また、実質破たん(債務超過)である以上、株主責任も問われなければならない。これまで配当等利益を得てきた株主は、良い時だけではなく、こうしたリスクも当然とらなければならない。100%減資、あるいは、国有化による株主価値の希薄化も甘受すべきだろう。
貸し手(金融債権者)の問題もある。この点、その責任ありとして債権放棄等を求める枝野官房長官と、その責任なしとする与謝野経財相とが対立している。しかし、株主同様、こうした原発リスクを織り込んだ上で莫大な資金を供与し利益を得てきた以上、リスクもとらなければならない。実質債務超過という理由で特別立法により一時国有化をするなら、こうした対立も解消できる。要は、法的根拠が必要なのだ。そうすれば、賠償債権と金融債権はどちらも「一般債権」でその優劣はないから、賠償債権が毀損されるという問題もクリアーできる。
具体的には債権カット(放棄)を促す。この額がおよそ4兆円あるが、この点、枝野官房長官が原発事故後にメガバンクが東電に貸し込んだ約2兆円の資金は例外扱いするかのような発言をしたが、おかしい。むしろ、リスクが顕在化した以降、あえて貸したということは、よりそのリスクは負わざるをえず、この分も当然カットの対象となる(ただし、この2兆円は銀行側からすると特別背任の罪にも問われかねない貸出しだ。あるいは、裏で政府の暗黙の保証がったのか。前出中西議員もこの点を今後追及)。
最後に国が、賠償という法的責任も最終的に負うことを明確にすべきだ。これまで原発を国策として推進してきた国の責任は免れない。賠償総額が、上記の額で足りないのなら、国が最後までしっかり賠償責任を果たすということが、被災者に安心と希望を与えるために必要不可欠であろう。
ただし、そのための増税や新たな借金は必要ない。政府は、「交付国債」という便法を採用したが、その必要もない。毎年、原子力関連予算は4000億円超あるが、そのうち、原発立地市町村への交付金等を除いた2000億円程度は、この賠償のために転用しても実害はない。政府が「脱原発依存」という方向性をはっきり打ち出せば、尚更、このお金は必要なくなる。3兆円弱ある「原発埋蔵金」も活用すべきだろう。足りなければ、これまで縷々指摘してきた特会の埋蔵金(15兆円)を使えば良い。
なお、5兆円にものぼる社債権者については、電気事業法上、優先弁済の規定があるので、ここまで切り込めば、財産権の遡及的侵害という観点から憲法違反とされ、訴訟が頻発するということにもなりかねない。いくら賠償といっても手をつけるわけにはいかないだろう。
以上の基本的考え方、原理原則に基づき、東電は、特別立法により、金融再生法の特別危機管理のような「一時国有化」にする。そして、将来的には送電施設の売却(それ自体5兆円の価値があり賠償原資になる)をはじめ、資産デューデリだけでなく、事業デューデリも行い、電力事業の再編・自由化にも踏み込む。
誤解なきように付言するが、東電を国家管理にはするが、官僚や政治家が事業を運営するのではなく、あくまで民間主導の再生とする。そして、賠償責任はきっちり果たし、被災者に安心を与える。これが、みんなの党の基本的考え方だ。
(注1)「交付国債」とは?
金融危機対応の時にも使った手法。交付した時点では予算には計上されず、将来お金が必要になって換金した時点で歳出予算にたつ国債。一種の「隠れ借金」。
(注2)「原発埋蔵金」とは?
使用済核燃料の再処理、最終処分のために、各電力会社が積み立てたお金。現在3.5兆円(再処理用2.7兆円+最終処分用0.8兆円)
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