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阪神淡路大震災の教訓・・・まずは人命救助、被災状況の把握

2011年3月14日  tag:

 1995年1月17日朝、阪神淡路大震災の起こったその日、私は橋本龍太郎通産大臣の秘書官だった。その日の早朝、兵庫の方で大地震が起こったことは事務方からの報告で知ってはいたが、午前8時か9時から始まった官邸での政府与党首脳会議の雰囲気は、まったく切迫感のないものだった。

 当時の首相は村山富一氏だった。自社さ政権で、社会党出身の首相が官邸のトップに座っていた。私は、後部座席の秘書官席に座りながら、こんな悠長な会議で本当に良いのかと疑問を感じていた。

 しかし、それを一人村山首相にかぶせるわけにはいかない。当時は官邸に「危機管理センター」すらなく、まったく「がらんどう」「空洞」の司令塔でしかなかったからである。

 結果、この阪神淡路大震災では、6000名以上の犠牲者がでた。当初は予想もできなかった数である。刻々とその数が増えていく、その報告を聞くたびに、村山首相の顔が苦渋で歪んでいくのがわかった。

 社会党政権で自衛隊の出動が遅れたこと、がれきの下に生き埋めになっている犠牲者を発見する救助犬の受け入れが遅れたこと等に象徴されるように、初動の遅れが致命傷になった。

 ただ、それよりも何よりも、被災状況の把握では、官邸はまったくお粗末な体制でしかなかった。90年代初頭に湾岸戦争があり、そこでは同じような官邸の惨状(「湾岸戦争のトラウマ」)が露呈していたにもかかわらず、戦後初の政権交代等の政治の混乱で体制整備がなされてなかったのである。

 こうした反省をもとに、橋本政権では、中央省庁再編の前倒しとして、官邸にその専門官である「内閣危機管理監」を設け、官邸の地下には24時間職員常駐の「危機管理センター」を設置することにした。

 だから、阪神淡路大震災の時と、今の官邸のシステムには天と地の差がある。今、徹夜で対応しているはずの政府スタッフは、センターのスクリーンや連絡システムを使って、リアルタイムで画像を含む種々の情報を入手していることだろう。

 こうした災害、危機の時には、指揮をとる首相は、この危機管理センターにどっかり座って、錯綜する情報をスクリーニングしながら、適宜適切な指示を出すべきなのである。今回もそうだが、現地では、停電でテレビもなく電話も通じない。道路、鉄道等の交通手段も寸断されている。状況把握もできず、かえって東京でテレビを見ている方が一番という状況もある。

 こうした非常事態で厄介なのは、政治家の中に「目立とう精神」を発揮し、ここぞとばかりにパフォーマンスを繰り出す輩が必ず出てくるということだ。「人命より党利党略」の政党も言語道断だ。

 人命救助は「72時間」が死活的に重要である。そして、この時期は災害直後の「混沌」の中にある。被災状況も満足に把握できない。二次災害の危険もある。現地の政府、地方自治体の職員、自衛隊や警察、消防等の職員等は猫の手も借りたい状況だ。こうした時に「功名心」だけの「目立とう精神」の政治家が被災現場に入ってくる。迷惑千万だ。阪神淡路大震災の時がそうだった。

 これが党の幹部等「お偉いさん」になると、それなりの接遇や説明、案内もしなければならない。そんな暇はまったくないのだ。ただ、それでも、どうしても入る必要が出た場合には、「自己責任」「自己完結」で一切迷惑をかけずに行くべきだ。

 今回の大地震にあたって、私が菅首相も出席した党首会談で「人命救助に死活的に重要な72時間以内に、被災現場に各党が個別に視察団等を出すのはやめよう」と提案したのは、こうした理由からだ。これまでの通例ではありえない提案だから、正直、反発も予想したが、幸い、谷垣自民党総裁をはじめ各党の党首は賛成してくれた。

 その代わり、と言っては何だが、政府と情報の共有は絶対に必要なので、官邸と各党のホットラインの設置も要望し、これも了承された。このラインを活用して、実際、我が党のツイッター活用議員は、被災現地からの情報を官邸につなぎ、具体的な成果をあげつつある。

 まだ、被災の全容は明らかになっていない。日々、その被害は拡大するばかりである。いや、拡大というより、明らかになりつつあると言った方が正確だろう。犠牲者数は阪神淡路大震災時を大きく上回るとも言われている。まずは、こうした被災状況の全容を把握しなければ復興の絵図面もかけない。そして、今の時期、最も大切なことは、一にも二にも人命救助なのだ。

 こうした時に、政党、特に野党のできることは少ない。被災状況把握も、人命救助も、そのための権限や体制、すなわち、警察や消防、自衛隊、海保、さらにはライフライン関係の電力、ガス、水道会社からの情報等を体系的、総合的に把握、指示、実行できるのは、一義的には政府なのだ。

 したがって、まずはここは政治休戦をし、この政府の努力を全面的に支える、これが政党のとるべき態度だ。そして、今後、政治の出番、主たる役割である、被災者の生活支援や復興策の策定、そのための予算や関連法案の迅速な成立、実施を可能とするために、政府との情報共有が不可欠となる。

 その意味で、政府には迅速に、隠しだてをせず、不都合な事実も含めて、国民に広く情報を開示してほしい。我々も断片的ではあるが、知りえた情報は官邸に通報し、出てきた知恵も提供する、政府に足らざる所は足し、来るべき、生活支援、復興関係の対策では、その財源も含め、大いに提案する。党利党略ではなく、まさに、国をあげて、与野党が協力していくことが肝要なのである。

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