民主党の「戸別所得補償制度」のように、貿易自由化も減反廃止もなく、専業も兼業も、大規模農家も零細農家も、選挙の票目当てに一律に税金をばらまいていては、いつまでたっても農業の足腰は強くならない。それは、ここ数十年の農業保護政策の結果、岩手県分の農地が失われ、埼玉県分の休耕地が放置されてきていることからも証明済みだろう。
さらに悪いことに、この戸別所得補償の導入で、全国各地で「農地の貸し剥がし現象」が起きているという。「補助金がもらえるなら自分で飼料米を作るから返してほしい」といった具合だ。この影響で集落営農の解散も出てきており、これでは農地の集約化や生産性の向上に逆行する事態が続出することになる。
TPP、貿易自由化反対派は、口を開けば「それでは農業は壊滅する」と叫ぶ。しかし、今のまま保護政策を続ければ農業の将来展望が開けていくのか。いや、逆に確実に日本の農家は壊滅していくことだろう。現に、ウルグアイラウンド対策費で、8年間6兆円の税金をばらまいても、コメに778%の関税をかけても、農業の競争力は衰えるばかりだった。少し数字をたどってみよう。
農業就業人口は1960年の1454万人をピークに減り続け、2008年には298万人(全就業人口の3%)と8割近くも減った。農家戸数も半分以上減って252万戸(うち主業農家【所得の50%以上が農業収入】35万戸)。農業従事者の65歳以上比率は6割以上に上る。
農地面積もピーク時の1961年、609万haから2008年には463万haに減った。すなわち岩手県分の農地が失われたのである。一方で耕作放棄地は増え続け39万haで埼玉県分にもなった。生産額は8兆4736億円(GDPの1.5%)、ピーク時の84年から3割減となっている。
そして、水田を営む農家1戸あたりの農業所得は40万円弱。ほとんど生業とは言えない惨状だ。うち補助金が20万円。OECDによると、日本の農業補助金は農家収入の49%で、EU(27%)、米国(10%)に比べて図抜けて高い。補助金漬けとも言ってよい状況だが、それでも日本の農業には先行きがないのだ。
91年に牛肉・オレンジの自由化がされた時も、関係農家は壊滅すると言われた。確かに肉牛農家は22万戸から7.4万戸に減ったが、1戸当たりの飼育頭数は12.7頭から38.9頭となり、規模の拡大で生産性は上がった。
ミカン農家も3~4割が廃園したが、単価が甘夏の2.5倍するデコポンは200倍45億円市場に発展している。また、イタリアが原産地のブラッドオレンジを導入した宇和島のミカン農家は、本家本元が日本への輸出をあきらめるほどの美味さでグングン生産を伸ばしている。価格はミカンの5~6倍、利益率は7割にも上るという。
韓国は数年前から、自ら「輸出立国」の道を選択し、農業保護策から輸出強化策への大転換を図っている。ここ3年間で輸出額は4割アップし、その総額は48億ドル。 2012年には100億ドルが目標だ。その代わり、04年から14年までの対策費はあわせて9.1兆円。これを日本に置き換えると40兆円が必要と農水省は主張するが、韓国の対策費は保護関係コストだけではない。
今、政治には大胆な発想の転換が求められている。ゆめゆめ、農業保護に巨額な税金を費消し、貿易自由化も中途半端で、日本の農業もなくなった、という最悪の選択肢にならないようにしなければならない。
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