私が、橋本政権当時、キャンプシュワブへの普天間機能移設のために立案した「杭打ち桟橋工法」が、5月末の期限を迎える土壇場になって鳩山政権内で急浮上している。
パンドラの箱をあけておいて、「覆水盆に返らず」という状況を鳩山首相自らがつくっておいて、何を今さらという思いだが、今後、どのような展開になるかもしれないので、最低限の誤解、誤った認識はここで正しておきたい。
まず、当時の構想と鳩山政権が今検討している構想とは、同じ「杭打ち桟橋工法」でも、設置場所が違う。橋本政権当時は、辺野古沖、はるか沖合に桟橋をかけて、そこに杭を打って滑走路を造るという案だった。一方で、鳩山政権で検討されているのは、その案がまだ定かではないので断定はできないが、いわゆる「浅瀬案」というもので、具体的には辺野古湾に陸続きで設置するものと理解される。
それはたぶん、「埋め立て」と「杭打ち桟橋工法」との合わせ技、ハイブリッド案であろう。私の案のように、単に沖合に出しただけでは、埋め立てがないので地元の利益に資さない。特に、この問題では常に陰でうごめく土砂利権のためにはならない、ということを配慮してのことだろう。
しかし、この案では、海上にする意義が大きく減殺される。それはそうだろう、海上といっても湾内に設置すれば、騒音も軽減されないし、住宅地をヘリが飛来しないという安全上の問題もクリアーできない。「沖合い案」はこの点、騒音も、安全上の問題もクリアーするからこそ意味があったのである。
この「杭打ち桟橋工法」について、昨日の日曜討論(NHK)で驚くべき発言が出た。しかも、この分野では我が国で第一人者と思われている岡本行夫氏からである。ことわっておくが、岡本氏と言えば、私も大変懇意にしており、ご承知のように、橋本政権下では、この普天間移設問題で大変なご苦労をいただいた。私自身もこれまで、あらゆる機会をとらえてその貢献について感謝の意を表してきた。
しかし、昨日の発言はいただけない。岡本氏は従来から、いわゆる「埋め立て派」なのでやむをえない面はあるが、3点について、その認識をここで改めておきたい。
まず第一に、滑走路を海上に置くといっても、その範囲で日光は遮断されるので、その下の藻場は死に絶える、と彼は言った。しかし、滑走路はコンクリートだが、その他の部分は必要に応じ強化ガラスを使用するので、太陽光線は斜めに入り込める。陸地から沖合いまでの桟橋もそうだ。確かにそれでも日光が入り込めない部分の藻場消滅はありうるが、他のメリットに比し受忍限度の範囲内ではないか。ちなみに、杭の間を海流が通り抜けるので、埋め立てのような海流をせき止めることもなく、基本的に生態系は変えない。
次に、岡本氏は滑走路を撤去しても林立した杭は残ると言った。これは大間違いだ。杭はバイブレーターで振動をかけ撤去するので、施設はすべてなくなる。撤去後は、海水と砂が自然に杭穴を塞いでくれる。この案の最大のメリットは、基地の必要性がなくなった時はいつでも完全撤去できるという点であり、こうした基本的な所で誤った発言をしてもらっては困る。
最後に、例えば、プラスティック爆弾等を仕掛けられて海からのテロに狙われる危険性があるので米軍も受け入れないという発言もあった。たしかに、どこでもそうだがテロを100%防ぐことは不可能だ。しかし、こういった反対、論法が通るのなら、同じ「杭打ち桟橋工法」で設置された羽田の拡張工事、ニューヨークのラガーディア空港はテロにあってもかまわないのか。軍事基地はだめで民間空港ならテロにあっても良いと言わんばかりの理屈は通らないだろう。しかも、米軍が常時駐留している地域のテロへの備えはそんなに脆弱とも思えない。特に、ヘリコプター基地など軍事施設は、センサーなど最新の防備技術を駆使する筈で、テロ攻撃には弱くない。したがって、これはためにする議論だ。
安全保障、特に沖縄の専門家ですら、こうした基本的な点を間違う。他の専門家、識者といわれる方々は尚更のことであろう。普天間の問題の解決には、細心の注意と機微にわたるオペレーションが必要なだけに、為政者はしっかり頭においておく必要がある。
ただ、誤解なきように言っておくが、私もこの「杭打ち桟橋工法」による辺野古沖合い案が、今の状況下で可能な案というつもりは毛頭ない。鳩山政権がここまで事態を悪化させたら、誰がそのあとを引き継ぐにしても、解決は至難の技だ。政権交代前に戻って白地で議論できるなら、いくらでも議論できるが、今となってはどうしようもない。ある程度の冷却期間は必要不可欠で、その間、普天間の危険は残る。最悪の事態で、その意味でも鳩山首相の罪は限りなく重い。
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