数ヶ月間の紆余曲折をへて、先週、やっとJALの再建策が決定された。その内容は、今後、日本の航空産業をどうしたいというビジョンもなく、そのリストラの中身も「甘甘」で、これでJALが再生するとは、とても思われない内容だ。
その再建策(事前調整型の法的処理)は以下のとおりだ。
1.8676億円の債務超過に陥っているJALに、企業再生支援機構から
3000億円を出資、民間銀行、政策投資銀行から7300億円を融資し
1624億円の資産超過にする。
2.2009年度に2651億円の連結赤字である営業収支を、3年後の2012年度
に1157億円の黒字に転換する。そのために以下を実行。
(1)26の不採算路線からの撤退(内訳は国際が14路線、国内12路線)
(2)燃費の悪い航空機(B747-400を37機、MD90を16機)に代え、
小型機33機、リージョナルジェット機17機を導入
(3)5万1862人に及ぶグループの人員を3万6201人に減らす
(4)ホテル、旅行事業などの子会社の売却、清算 等
まず、やっと「法的処理はしない」と当初明言した前原大臣の呪縛から逃れて、「法的処理」という形に最終的に落ち着いたことは評価しよう。また、政投銀の融資にも、財務省が当初要求していた政府保証をつけず、これ以上の直接的な国民負担を増加させないという姿勢を示したことも良いだろう。
しかし、一企業の再建を目的とする企業再生支援機構としてはこれでいいのかもしれないが、JALが今後、本当に国際線を維持しながら再生をしていけるのか、世界の、アジアの航空需要がどうなり、その中で世界の、アジアのメガキャリアがどう再編されていくのか、オープンスカイ政策の進捗も含めて、その将来ビジョンがなければ判断が下せないというのが正直なところだ。その肝心要のことを、前原大臣はじめ政府はまったくやってこなかった。
そうした批判が耳に届いたのか、前原大臣は、再建策を決めた日の夜、民放のTV番組に出て、「今後3年以内にJAL、ANA二社体制を含めた航空産業の在り方を抜本的に見直す」と表明した。しかし、これでは、今の再生策を実行しても、JALが再生できるかどうか、まったく見当が
つかないということを大臣自身が認めたのと同じだ。
そもそも、このJAL問題は、政権交代直後から迷走してきた。その最大の要因は前原大臣にある。こうした抜本的リストラで、まず「法的処理はしない」と明言したことから足元をみられ、かつ、自ら「腹案がある」と宣言し、何の法的権限もない「チーム前原」に再建策作りを命じたこと
で暗礁に乗り上げた。それもそのはず、こうした極めて債権債務の錯綜した案件を、得体のしれないチームにまかせること自体が無理で、案の定、関係金融機関との反対でとん挫したのである。そして、あらためてゼロから資産査定も含めて、企業再生機構がやり直したのである。
これを関係者の間では「失われた一カ月」と呼んでいるそうだ。「チーム」の再建案は、国交省の金庫に封印され公表さえ許されず、そして、それには、JALから10億円前後の報酬がチームに支払われたという。何をかいわんや、である。
その間、前原大臣のきまぐれな発言に応じて、JAL株は乱高下を繰り返し、昨年の総選挙直前には170円だった株価は、「100%減資」を示唆した時は7円に、そして、最終的には3円、1円にまで落ちた。この責めは、ひとえに鳩山首相や前原大臣が負うべきものである。
そもそもJALは、採算路線など優良な事業・資産と、赤字路線などの不採算事業に分離し、優良な事業(グッドJAL)に新たな資金を投入し、不良資産は旧会社に残し債務を整理して清算するのが妥当であろう。米ゼネラル・モーターズ(GM)や旧国鉄などで採用された手法だ。
今後、世界の航空界では「オープンスカイ」が急速に進み、アジアでは、仁川国際空港、上海浦東国際空港、シンガポール・チャンギ国際空港がハブ空港化している中で、5社程度のメガキャリア(巨大航空会社)と、それ以外の地域特化型の格安航空会社しか生き残ることができないと言われている。欧州ではすでに、ルフトハンザ、BA、エールフランスKLM3
社だけが生き残っているという状況だ。
そういう中で、前原大臣の「政治生命を賭しても、JALの国際線からの撤退は認めない」という前提で、本当にJALは再建できるのか。「国内外の26路線から撤退」だけで、1日10億~20億円もの赤字を垂れ流しているといわれるJALのリストラ策として十分なのか、裁判所から更生決定
というお墨付きを得るまで「つなぎ融資」は枯渇するのではないか等々、疑問が尽きないのだ。2次破綻しかねないと懸念されている理由である。
既に政投銀の日航向け債権残高のうち約440億円が焦げ付いた。これは国民が尻拭いをさせられる。今後、日本の航空会社が二社も生き残れる可能性が低い中で、国交省が真面目な航空産業政策を講じようとせず、ただ、目先の企業救済策に汲々とする。その迷惑を国民負担と言う形で被るのは、そう国民なのである。
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