12月17日、小沢一郎幹事長は大勢の副幹事長らを引き連れて官邸を訪れ、鳩山首相以下大臣が居並ぶ政府側の前で、党としての予算編成の重点項目を要望した。いや報道によれば、それは「要望」ではなく決め打ちの「要点」だったという。
そして、驚くべきことに、その内容は、従来からの政府部内での議論をひっくり返す「暫定税率の維持」や「子育て手当への所得制限の導入」、そして、極めつけは自民党張りの「高速道路や整備新幹線の建設」だった。
振り返れば、この内閣は当初、前週論じた「政治主導」とともに、「政策の内閣一元化」を看板に掲げた。そのために、党の政策調査会は廃止され(菅直人氏は党役職からはずされ)、政策は内閣に任せ、小沢幹事長はそれに口出しをしないという約束にした。
ただ、従来の民主党の主張は、党幹事長も含め、党の要職にある者は閣内に入り、それによって、自民党政権時代の内閣と党という二元的な意思決定過程を廃し、政策立案・実行の権限と責任を国民の目にも明確化することが目的だった。だから、当時、小沢幹事長だけが内閣に入らないことが危惧されたものである。
その危惧が、政権発足から三か月を経て顕在化したことになる。しかも、その要望の内容は、冒頭ふれたように、その是非は別にして、それまで鳩山政権が約束したマニフェストや、閣僚たちが議論してきた内容とは相当異なるものになった。そして一体、それらの要望が、どんな基準でどういう過程を経て集約されたものかもわからないし、その説明もない。すなわち「密室」で決められたものだった。
そして、小沢幹事長は、そのような党重点事項を「全国民の要望」と堂々と言ってのける。これは、鳩山内閣が、事務事業の仕分け作業等でみせた政策決定プロセスの公開、透明化にも真っ向から逆行する政治スタイルだ。小沢氏らしいと言えば、これ以上ない小沢氏らしさだ。
なぜ、こんなことが平然と起こるのだろうか。それは、やはり、この政権が「表の顔」と「裏の顔」にわかれ、「表の顔」は、知ってか知らずか、国民受けするパフォーマンスを繰り広げ国民の目をくらませながら、水面下ではしっかり「裏の顔」が取り仕切り、実際の政策決定を行っているからだろう。
だから「言っていることとやっていることが違って」くる。「脱官僚」という金看板を捨ててまで日本郵政社長へ斎藤次郎氏を起用する、政治主導と言いながら「国家戦略局」は作らない、「コンクリートから人へ」と言いながら「人からコンクリート」という真逆の要望が党から出てくる。
先週のべた「政治主導の勘違い」とともに、「政策の内閣一元化」も崩壊し、この政権は深刻なガバナンスの危機に直面している。普天間基地移設先の迷走も含め、こうした状況が続くと、早晩、この鳩山政権は破たんへの道を歩むことになろう。
その最大の試金石が、来年度予算編成で到来する。その際、私が注目しているのが、この小沢重点事項と、実際の鳩山内閣の予算編成の仕上がりとの比較対照である。
最近の支持率の急落は、一連の国政マターについて鳩山首相のリーダーシップが欠如していることにある。ある鳩山首相と政治行動をともにした先輩政治家の言によれば「彼はギリギリまで決断を先延ばしし、その挙句決断したことは、ことごとく間違ってきた」という。予算編成という一番重要な政治的発露の部分で、小沢幹事長に押し切られるようなことになれば、この政権の性格、その正体は、白日の下にさらけ出されるであろう。
先の選挙で国民は、民主党に投票したのであって、「小沢一郎」にいれたわけではない(ちなみに「亀井静香」にいれたわけでもない)。党幹事長という、職務権限もなければ、国会で説明責任を果たす必要もない職にある者が、枢要な政策を不透明な形で決めてしまう。こうしたことが続けば、内閣だけでなく、民主党自体への支持も落ちていくことだろう。
思えば、あの細川政権が早期崩壊への道をたどった最大の理由は、当の細川元首相、田中秀征元総理特別補佐が証言するように、斎藤次郎氏ら大蔵官僚と手を組んだ小沢一郎氏による「国民福祉税7%」のごり押しだった。あまりにも当時と酷似する今の政権状況。2010年、それは表向き絶対安定多数で強固にみえる政権基盤が、驚くほどもろく毀損されていく年となる。
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