麻生首相は先週、今年入省してきた新人官僚約700人を前に、「私は公務員バッシングには与しない」「問題は公務員を使いこなせない政治家にある」と話したそうだ。その言葉だけをとりだせば首相の言うとおりだが、一番、「公務員を使いこなせない政治家」が自分であることにはお気づきではないようだ。
その証拠に、先月末、閣議決定され、国会に提出された国家公務員法改正案は、完全に官僚の言うなり、骨抜き、いや改悪にすらなっている。政治の混乱に乗じて、またまた信じられない官僚政治がはびこっているのだ。
一番の問題は、内閣人事局長に誰をあてるか、という点にあった。内閣人事局の設置は公務員制度改革の肝で、幹部官僚人事を内閣に一元化し、総理や官房長官主導で決めるという画期的な改革だった。それまでの霞が関のお手盛り人事、すなわち、無駄な補助金や許認可権限を維持・拡大し、天下り先を増やした官僚が出世する人事から、国民本位に政策を立案し、税金の無駄遣いも減らした官僚が出世する人事に変えていこうという趣旨だった。しかし、まさに国民そっちのけの政府部内でのバトルの結果、何と、そのポストを霞が関のドン、事務の官房副長官が兼務することになったのである。
当初の案は、当然、内閣人事局長は専任で、かつ、副長官クラスにするということだった。それが、人事局長が自分と同格だと大事な幹部官僚の人事権を剥奪されると、あの「自民党には捜査は及ばない」という発言で物議を醸した霞が関のドン、事務の官房副長官がポストの格下げを主張した。そうすると今度は、同じく、財務省出身の官房副長官補もそのポストを自分の配下に置けと主張する。要は、幹部人事権限を自分たち官僚が差配したいという横やりだった。まさに、国民不在の、官僚の、官僚による、官僚のためのバトルが展開されたのである。
これに対しは、さすがの与党・自民党も反発し、人事局長は「官房副長官」と同格ということにはなったが、そうと知ると、今度は、そのポストそのものに自分たちが座ろうと、官邸官僚が総出でポスト獲りに動いた。その結果、麻生総理の裁定で、事務の官房副長官が兼務するという最悪の結果になったのだ。これでは、今までどおり官僚のお手盛り人事が行われ、何のために人事局を設置するのか、完全な骨抜き、いや、官邸に「一大焼け太り霞が関村」ができるという意味では大改悪にすらなっているのだ。渡辺喜美さんが頑張った公務員制度改革も、これで完全にお釈迦となった。
この過程においては、甘利行革担当大臣がめずらしく改革魂を発揮し、事務の官房副長官ではなく、既に設置が決まっている「国家戦略スタッフ」(官邸で政治主導を支えるスタッフ)を人事局長に兼務させるという案を麻生首相との間で一旦決めた。首相が新たにポストを増やして人件費増になるのを避けたいとこだわる(これも官邸官僚の振り付け)ので編み出したなかなかの妙案だった。
しかし、この案については、内閣法制局の担当参事官がOKを出したにもかかわらず、なんと法制局長官が蹴って、結局、振り出しに戻ったという経緯がある。その理由は、「国家戦略スタッフ」のようなスタッフ職が、内閣人事局長のような「ライン職」を兼ねてはならないということのようだが、現行組織の中でも、防衛省において、スタッフ職たる防衛参事官が、ライン職である内局局長や官房長を兼ねている例もあり、理解しがたい。事務の官房副長官と内閣法制局長官の間に、何らかの連係プレーがあったことを伺わせる。この点については、先週、私は質問主意書を出して内閣の見解を問いただした(次週に続く)。
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