ある月刊誌で数年前、自民、民主の若手政治家何人かが、政治資金収支の詳しい内訳を公表したことがあった。それによると、少ない人で年間4千万円、多い人で1億円もかかっている。比較的清貧で改革派の政治家でもそうなのだ。与党・自民党の中堅以上の代議士であれば、年間1億円から2億円程度は、ざらにかかっているのが現実だろう。
もちろん、この支出面での精査は必要だろう。ムダはないか、必要以上に経費をかけてないか。この点については次週以降に説明したい。
私は、なかなか政治活動の実態が国民に伝わっていないから、また、国民の政治不信が大きいから、政治資金への理解も進まないのだと思っている。結論から言えば、企業・団体からの政党支部への献金禁止、できれば政党本部へも献金禁止、すなわち、真の意味での企業・団体献金の全面禁止が実現できるのであれば、政党助成金を少し増額してもいいのではないか。その上で、1円でも企業・団体献金を受けたことが発覚すれば、即刻その政治家はクビという法整備をすればいい。現行の公的助成制度で、政治にかかる最低年間4千万円前後の経費さえ賄えないのであれば、その足りない部分を、さらに政党助成金で補うということは、考えてもいいのではないか。
現行では、政党助成金に、国民一人当たり250円負担している。それが年間三百十数億円という予算になり、各政党に分配(共産党は辞退)されている。
実際の運用はどうか。単純に、政治家個人への人頭割り配布にはなっていない。なぜなら、自民党や民主党のような大きな政党組織では、党職員の給料や建物の維持管理費も賄わなければならない。そこにも政党助成金が充当されるので、末端の国会議員には、年間1千万円前後が渡されることになる。
加えて、政治家個人には、国会から「文書交通通信滞在費」という名目で、毎月100万円が支給される。これが年間1200万円。合わせて2200万前後の助成金があると考えればいい。したがって、残りの不足分を、通常の議員は、企業・団体献金や個人の寄附(カンパ)で賄っているわけだ。だから、若手議員でも、年間1000万~2000万円程度の企業団体献金をもらわなければやっていけない。
必要額が議員によって大きく異なるのは、私設秘書を何人雇うか、口利き型、陳情型の政治をやるかどうかによって左右される。また、派閥の親分ともなれば、子分に配るお金も集めなければならない。しかし、そういうことに使わなくても、ましてや悪いことをしなくても、政治には普通にお金がかかるのだ。
いずれにせよ、しっかりと情報公開して、国民的議論をしたうえで、理解が得られるなら、国民一人あたり、年間400円~500円の政党助成金を負担してもらってもいいのではないか。ただし、それで本当に政界が浄化するのなら、だ。しかし、そこに国民の大きな不信感があるから理解が進まない。
残念ながら、日本では、個人献金の習慣が育っていない。米国には草の根民主主義の歴史、伝統がある。「小金持ち」「中金持ち」がベンチャー企業に投資したり、政治家へ寄附をしたりする。オバマ氏は大統領選で、インターネットを駆使し「ワンクリック献金」等で何百億円も個人献金を集めた。そういう土壌、文化が日本にはないので、個人献金といっても、どんなに集めても年間1千万円には届かない。
こういう実態も、よく国民の皆さんに理解していただいたうえで、真面目な政治家が、真っ当に政治活動をしていてもカネが足りないということであれば、政党助成金を活用すべきではないか思う。政治家が金集めに腐心をして、本来やらなければならない政策や議員立法の立案に手間暇を割けない、というのでは本末転倒ではないだろうか。ただ、その場合には、国会議員が定数の大幅削減等で身を削って、その財源を捻出すべきであろう。
もちろん個人献金の促進策も必要だ。献金した場合の所得税額控除をもっと拡大するなどの優遇措置を講ずるべきだろう。また、米国のように、インターネット上で「ワンクリック」で、クレジットカードで決済できる献金が可能になるよう、カード会社の理解も得ていかなければならない。
このように、政治活動は、個人献金を中心に行っていくべきだ。ただ、それだけでは今の日本では資金手当が不充分なので、やむをえず政党助成金も活用する、その代わりに政治家個人への企業・団体献金は全面禁止にするという流れを、もっと推し進めていかなければならない。何も、私だけが声高に言っているのではなく、この方向は、九三年当時、政党助成金制度を導入した時の、与野党含めて合意した政治資金制度の原点なのだ。
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