中長期的は、「比較優位の原則に基づく国際分業の流れ」と「世界一の少子高齢社会」という現実を見据えなければならない。
前者については、昔、日本の「1$ブラウス」が米国の繊維産業を壊滅させ、ブラウン管テレビが米国のテレビ産業を消滅させたように、今度は日本が米国の立場に立たされ、低付加価値産業については、BRICSをはじめ新興国にとって代わられるのは、残念ながら、抗うことのできない歴史の必然だということだ。
これに対する処方箋には、王道や奇策はなく、基本に立ち返って、もう何十年も前からOECD等で議論されてきた「PAPS」がその回答となる。
「PAPS」とは、Positive Ajustment Policy の略で、日本語では「積極的調整政策」と訳される。こうした経済危機になると、往々にして各国が陥り勝ちになる「保護主義」を回避するため、この政策を採る以上、それは国際標準だというお墨付きを与えられる。
簡単なことだ。一国の産業構造を「衰退部門」(Depressed Industry)から「将来有望な部門」(Prominent Industry)へ円滑にシフトさせる政策で、具体的には、様々な生産要素・資源(設備や雇用)を後者にシフトさせるための補助金や税制のことをいう。この限りにおいて「保護主義的政策」とはみなざれず、国際的にも正当化される。
例えば、この危急の折り、米国はビッグ3救済へ直接的な資金援助をするが、それも将来的なリストラ再生策とセットでなければならず、不効率部門を残すことは許されない。日本も過去、鉄鋼や石化、セメント産業等の素材産業で、設備廃棄や雇用調整等で税制やカルテルの例外措置を認める等で、同じ事を促した。
したがって、今後の日本の経済政策、産業政策は、「貿易財」については、PAPSで非効率産業の市場からの退出を円滑化するとともに、ひたすら「高付加価値産業」を育成していくしかない。バイオやエレクトロニクス、環境や新エネ(太陽光パネル等)、省エネ産業等に「選択と集中」で税金を投入(研究・技術開発の面等で)していくしかないのだ。そして、そこで雇用を吸収する。農業も「マーケット型農業」に変革すれば、海外に出ていっても堂々と渡り合える。それだけの品質もある。
ただし、忘れてはならないのは「非貿易財」だ。ここには国際分業はあり得ない。医療や介護、福祉や教育等、しかも「地場産業」として不可欠なものばかりで、ここを政策的に大きなインセンチィブを与えて活性化すれば、疲弊している地域も一気に活性化する。そして、それは、「世界一の少子高齢社会」への対応にもなる。一石二鳥となる。
最後に、その「世界一の少子高齢社会」への対応だが、民間企業参入やNPOの方々の力を借りるにしても、やはり、そこには税金の重点投資が不可欠になる。いや、国政の最優先課題として、他の政策経費を大胆に削減してでもやらなければならないことだろう。ただ。ここには莫大なお金(税金)がかかる。「改革の果実還元基金(または特別会計)」の考え方は記述したとおりである。
いずれにせよ、「百年に一度」の危機には、「百年に一度」の政策で対応しなければならない。今の「官僚頼り」の麻生政権に、その危機認識と政策があるだろうか。
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