話を戻そう。このIMFへの「10兆円」は、厳密に言うと埋蔵金ではない。外為の埋蔵金に当たるものは19兆円の為替変動準備金であり、今回の10兆円は本体の外貨準備約100兆円のうちの10兆円なのである。
そもそも、この外貨準備なるものが伏魔殿なのだ。財務省も「国が持つ為替の保有状況を明らかにすると市場に多大な影響を与える」との理由で詳細を明らかにしていない。一説には、サブプライム問題で経営危機に陥り国の管理下に置かれたファニーメイ(連邦住宅抵当公庫)の公社債を数兆円持っているとも言われる。
しかし、それ以上に問題なのは、この100兆円が、売るに売れない、塩漬けの、極めてリスキーな資産だということだ。一般の人は「100兆円もある」と勘違いし、それを国内対策に使えば良いではないか、となるかもしれないが、このお金は国内で調達した借金(円建ての政府短期証券)で賄われているので、そう簡単ではない。そして、このうち、85兆円は外貨建て債で保有し、その大部分が米ドル建て国債なのだ。
たしかにこれを売ることができれば、調達金利(国内金利1%前後)と運用金利(5%前後)の差、金利差にして4%分の利益が出るが、10年前、当時の橋本首相が米大学での講演で「米国債を売りたい誘惑にかられる」と言っただけで大問題になったことからもわかるように、米国債、ドルの急落要因となるので売るに売れないのだ。
しかし、今回のドル急落局面をみればわかるように、100兆円ものドル資産を保有しているということは、ドルの急落で多大な為替差損を被るということを意味する。現に、財務省は、私の質問主意書に答え、101円/$で19兆円の準備金はすべて吹っ飛ぶと答えている。
だから、こんな使い勝手の極めて悪い危険な資産は、タイミングをみて順次縮小していくべきなのだ。そうすればそこから「埋蔵金」(利益)も出てくる。要は、日本が金で米国を支えている所以、代表格がこの外貨準備なのだが、日本の国内事情、財政がこんなに厳しい状況下で、いつまでこんな「お人好し」を続けていけるのか、ということなのだ。
もちろん、今の米国経済、ドル危機の時に売ることはできない。しかし、ドル高局面等今後の推移によっては、臨機に外貨準備の縮小を図っていくべきであろう。いきなり売れないなら「デット・エクイティー・スワップ」、すなわち、米国債を優先株等に一旦振り替えて、将来、その会社の経営状況等に応じて売れば良い。
その意味では、今の国際金融危機は大きなチャンスだった。米国金融の象徴、シティーへの資本注入、ファニーメイ支援等で国際貢献と外貨準備縮小、一石二鳥とでも言うべき対策は打てたのだ。しかし、そんな問題意識もない政府は時機を逸した。
とにかく、こんな多額の外貨準備を持っているのは中国をおいてない。先進国はどこも日本の1/10以下なのだ。原則として、変動相場制を守るため市場への政府介入は行わないとの考えによる。だから、「借金で首が回らない」というなら、この100兆円ものお金を活用するのが一つの方策なのだ。
今回のG20は、当初、麻生首相が日本開催を提唱したのを無視して、サルコジ・ブッシュ主導で開いたものだ。これは明らかにドル・ユーロ基軸で今後の国際金融を牛耳ろうという意図が背景にあり、日本他アジアをその埒外に置こうとするものだ。そこに「押っ取り刀」で出ていって、相変わらずの「小切手外交」をする。情けないことに、いつの時代も日本は「キャッシュディスペンサー」程度にしか、欧米から見られていないのが実情だ。
もう一度言う。IMFへの拠出、国際貢献も良いだろう。しかし、麻生さん、国際金融官僚たちよ、あなたがたに何か今後の戦略はあるのか。欧米が、国際金融市場を舞台にして、国益をかけて熾烈な権力闘争、パワーゲームをしている時に、あまりに呑気な「お人好し」ではないのかと。
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