麻生首相が先般、緊急経済対策を打ち出した。その目玉が2兆円の「定額給付金」だ。私も、こうした金融危機、火急の時には、考えられるありとあらゆる手段を駆使することは当然だと考える方だが、これはいただけない。
最大の問題は、一年限りの措置ということだ。しかも、市(町村)役所の窓口で現金をばらまく。もらった国民はそれを有効に使うだろうか。これだけの厳しい経済環境下で、しかも3年後の消費税増税までちらつかせられて、せいぜい貯蓄に回すか、借金返済に回すか。小渕内閣当時の「地域振興券」もそうだった。政府ですら、景気浮揚効果をGDPの0.1%とはじいているが、現実はそれ以下であろう。
私も低所得者への給付に限るのなら、それなりの意義は認める。かつ、一年限りではなく、少なくとも3年程度の継続措置ならば、多少、家庭のふところも潤うというものだろう。一過性で景気浮揚効果もない対策に、2兆円もの埋蔵金(財政融資特会の準備金)を使うなど、ドブに捨てるようでもったいなくてしかたがない。
一般財源化する予定の、道路特定財源1兆円の地方交付にも、同様の問題がある。これも一年限りの措置で、これでは地方はお金をもらっても、維持管理費等の後年度負担を考えれば、こわくてまともな事業はやれないだろう。竹下内閣の「ふるさと創生基金」もそうだったが、結局、「金の延べ棒」程度のものぐらいしか買えない。やるなら、1兆円を地方に税源移譲し、これからも続く恒久措置にしないと意味がない。
高速道路の料金減も、肝心のトラック等の産業に波及するものが除かれているので効果が減殺される。休日にファミリーが遠出をし、かえって高速道路が渋滞して悪影響との声もあり、お金をけちった結果「虻蜂取らず」ということになりかねない。
中小企業への信用保証枠の拡大や住宅ローン減税の継続・拡大は評価できるが、今後、いかに、この制度の使い勝手を良くするかが課題であろう。制度設計を官僚に任せれば、結局、実際には使われない可能性もある。
ただ、この経済対策の一番の問題は、3年後の消費税増税を打ち出した点だ。前述のように、「暖房と冷房を同時にかけている」ようで、国民の消費意欲をそぐという難点に加え、私が強調したいことは、政治家や官僚の既得権益、利権に切り込む気のない麻生首相に、増税を言う資格はないということだ。
増税を言うなら、「大胆な行革」(麻生首相の発言)について、その具体的な項目と明確な工程表を示すべきだろう。世界一の少子高齢社会の日本で、医療や介護、年金や子育て支援等に莫大なお金が必要なことは私も認めるが、「増税の前にやるべきことがある!」という国民の声にしっかり応えることが先決だ。すなわち、国会議員や役人の数を大幅に削減する、税金を食いつぶしている官僚の天下りは全面禁止する、特別会計の埋蔵金(へそくり)は一円残らず掘り出す、こうした税金のむだ遣いを一掃することだ。
日本の経済が「全治3年」(麻生首相)と言うなら、「改革の果実還元」特別会計をつくって、そこに、上記行革、税金のむだ遣い解消で得たお金を入れ、3年間を集中改革・景気浮揚期間として、その財源を減税や格差対策、医療・年金の立て直し等に当てていく。今回のような場当たり的な対応ではなく、計画的に今後の道筋を国民がわかるようにすることこそが大切なのだ。そして、その後、その行政サービス水準を維持するために、かつ、集中改革期間のむだ遣い解消が十分かどうか国民に判断を求めた上で、どうしても増税をお願いしなければならないのなら、総理が頭をさげてお願いする。それが筋というものだ。
ただ、麻生首相にそんな深謀遠慮はなく、単に「給付金ばらまき」批判に応えるための、言い訳程度の「増税打ち出し」なのであろう。誰も、麻生首相が3年後、首相でいるとは思っていない。麻生政権は、やはり、その誕生時に私が言ったように、90年代の旧い、定見もない、バラマキ型の政治という正体を現してきた。
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