先週、ガソリン税等を10年間、道路だけに使うという「特定財源法」が、衆院で2/3以上の絶対多数を持つ与党により再議決(参院では否決)され、可決成立した。
その数時間前には、その法律の中味と真っ向から矛盾する、来年度から道路以外にも使えるようにするという「一般財源化」の閣議決定が行われたのに、である。どちらも同じ政府・与党の決定であり、議院内閣制をとる日本(政府与党一体)では尚更、「二重人格」と批判されてもしょうがないことが、しかも「国権の最高機関」で起こる。
これは、もはや「政治の劣化」以外の何者でもない。私も10年前、自民党政権を官邸で支えた男だが、少なくとも当時の与党・自民党は、こんな恥ずかしいことを平気で行うようなことはなかった。政治の体たらく、ここに極まれり、である。
民主党他野党は、当然、憲法の規定に従い、両院で議決が異なる場合は、両院協議会で議論し修正案をとりまとめるよう動議を出したが、これも与党により一蹴された。立法府が自らの責任を放棄した瞬間だった。
確かに、「一般財源化」を閣議決定にまで持ち込んだのだから、今後、これを翻せば内閣の政治責任を厳しく問われるので、現実には考えにくいだろう。しかし、仮にそうであるとしても、なぜ、その当然の論理的帰結である法律案の修正をしないのか理解に苦しむ。そこに「道路族」への、今の時点での配慮が伺われる。
もっとも「道路族」はタカを括っているのだ。特定財源は一般財源化しても、「特別会計」は残す。これも理解しがたいが、福田内閣の方針でもある。なぜか。少し専門的になるが、今後は、ガソリン税等の収入は一旦一般会計に入れられるものの、その後、そこから「特別会計への繰り入れ」という手法がとられるのだ。そして、この「繰り入れ額」が再び既得権益化するのである。
「道路族」は福田内閣で完全に復活した。小泉台風が吹き荒れていた頃は、穴蔵にこもって首をすくめて嵐が通り過ぎるの待っていた彼らも、堂々と地上に出てきて枢要なポストを今自民党で占めている。
彼らは日頃、選挙等で世話になっている一部の取り巻き支援者(土建業者等)の話しか聞かない。極々限られた「ハコモノ」と言われる屋内の会場の中で、そうした既得権益を守ろうと必死になって訴える特定の支援者の声ばかりを聞く。決して、街頭に出て、一般国民の生の声を聞こうとはしないのだ。
だから「山口二区の民意は民意ではない」「道路以外の、やれ福祉だ環境だに使うなど絶対に許さない」といったことが平気で言えるのだ。彼らは、そうした発言を繰り返すたびに、福田政権を、自民党を奈落の底に追いやっているということすら理解できないのだ。
そんな「道路族」だから、一般財源化されても、年末の予算編成で実力で道路予算を分捕れば良いと思っている。そして、あわよくば福田内閣が倒れれば、法律は厳然と10年間特定財源で残っているのだから、閣議決定など如何様にでも変えれば良い程度に考えているのだ。
さて、福田首相はどうするのか。今回の一般財源化の決断に、国民的拍手喝采が起きないのも、その使い道をどうするのかという首相自身のビジョンがまったくないからだ。少なくとも暫定税率分の2.6兆円程度は、救急車たらい回しに象徴される医師不足、介護士の待遇改善、年金や老人医療制度、子育て支援等に充当しない限り、国民の福田政権、自民党への風当たりは益々厳しくなっていくだろう。
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