地球環境問題を考える・・・ (5) 長期目標とセクター別アプローチ
2008年5月12日 tag: 環境問題
5/11付けの朝刊は一斉に、日本政府が温室効果ガスを「50年に▲60%~▲80%削減する方向」と報じた。既に日本は、世界全体の長期削減目標(50年)を「半減」と提唱してきたので、先進国としての当然の責任として、やっとまともな数値を打ち出したとも言えよう。
ちなみに、今争われている米国大統領選では、誰になろうとも(マケインでもオバマでもヒラリーでも)、産業界に配慮して消極的なブッシュ政権とは異なり、米国は50年で▲80%の削減目標を掲げるとの公約を出している。
この▲60%~▲80%削減という裏付けには、実は、国立環境研究所の「50年に日本ならCO2削減70%は可能」という報告書(07年2月)がある。これは、京都大学、立命館大学、東京工業大学など各分野の研究者ら約60人でつくるチームが出した研究成果で、「人口減や省エネによるエネルギー需要減・効率改善により、50年までにエネルギー需要の40~45%削減が可能。供給側での低炭素エネルギー源の適切な選択、エネルギー効率改善の取組みも合算。また、この削減にかかる技術の直接費用も、50年時点のGDPの約1%にあたる年間約6.7兆~9.8兆円」という考え方を前提とする。
このためには、水素自動車とか炭素隔離貯留技術の実用化等、これまでの技術の延長線上ではない革新的な技術ブレイクスルーが必要で、かなり厳しい達成目標だが、地球全体の温暖化を許容範囲内で止めようとすれば、「世界で半減」という目標は達成しなければならないので、むしろ伸びる途上国との兼ね合いで、主要先進国は、この程度の目標値は掲げなければならないのだ。
さて、こういう数値目標を今打ち出そうとしているのも、日本は、洞爺湖サミットに向けて、地球温暖化問題について、事態の打開を図らなければならないからだ。そこで、昨年末の「バリロードマップ」で提案したのが「セクター別アプローチ」だった。
温室効果ガスの排出は、日本の場合、電力、鉄鋼、セメント、運輸部門だけで6~7割を占める。そこで、これら主要セクター(部門)毎に、例えば、電力なら発電量当たり、鉄鋼なら粗鋼生産量当たりの排出量削減(改善目標)を定め、それを基に、世界の、国別の目標を設定しようというのだ。
これなら、まず、「実現可能性」という観点からも、途上国や産業界の「受入可能性」という観点からも、得策だと考えられたからである。
すなわち、京都議定書の、最後は政治加算で、まるで「どんぶり勘定」のように決められた数値目標が、今の各国の目標達成への呻吟状況を招いたという反省が「実現可能性」というアプローチを発案させ、また、原単位の向上(省エネ・生産性向上)という手法が、その技術移転を促進するという期待から途上国も受入やすい、さらに、過去の実績に配慮して将来の削減目標を決めるという方式が、公平という観点から産業界にも受入られやすい、と考えられたからである。
しかし、このアプローチの最大の欠点は、いくら「原単位」を改善しても、全体の産業活動、経済活動が増えれば、全体としての排出量が増える可能性が大であり、結局、地球全体の温室効果ガスの大幅削減が無理となることだろう。ましてや、「50年で▲60%~▲80%削減」という目標との乖離は激しくなる。
したがって、日本も、先に行われた国連の作業部会(3月)で、この方式が、全体の世界目標、国別目標に代替するものでないことを国際的に約束させられた。あくまでも、この方式を基に、マクロの削減目標は、別途の考慮要因を含め、より大局的に決められることになる。
ただ、今般来日した胡錦濤国家主席と福田首相との首脳会談では「気候変動共同声明」が発出され、その中で「日本側は、セクター別アプローチが国別総量目標を確定するのに重要な意義を有していると表明した。中国側は、同アプローチが排出削減指標や行動を実施する重要な手段だと表明した」とされ、ポスト京都で是非取り込みたい最大排出国・中国からの一定の評価を得たことは前進と言えよう。
また、並行的に行われている欧州や米国との協議でも、この「セクター別アプローチ」への理解が進み、「有意義」「有効」との評価が出始めている。その意味では、箸にも棒にも引っ掛からないという状況は脱して、この方式をベースに今後の具体的国別目標設定の議論が進められる土壌はできてきたとは言えよう。
しかし、あいかわらず、この方式を巡る、先進国と発展途上国との「同床異夢」的状況があり、特に、途上国にとっては削減目標などもっての他で、あくまで、この方式は技術移転の大義名分としての位置づけでしか認めないという意見が強いので、予断は許さない。
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