自衛隊給油をイラク戦争に転用?・・・テロ特措法
2007年9月 3日 tag:
私は、国会でも、一貫してテロ特措法に反対してきた。理由は簡単で、米国がアフガン戦争のことを9.11テロへの報復、自衛戦争と位置づけている以上、それに軍事的に加担することは、我が国憲法が禁止する「集団的自衛権」に踏み込む、と考えるからだ。
この点、インド洋に展開する米艦船等に燃料や水を補給することは「集団的自衛権」の行使ではないという説明がある。政府・自民党も同じ考えだ。しかし、条約上の「集団的自衛権」を行使してこの戦争に参加しているNATO諸国の実施計画には、当然、このようなロジスティクス(兵站業務)も含まれている。燃料や水の補給は、国際社会では当然、「集団的自衛権」の行使とみなされるのだ。
また、政府がテロ特措法を策定するに当たって、その根拠としている国連決議1368は、同時多発テロの翌日(01年9月12日)、タリバン政権やアル・カイーダが犯人であるとわからない段階で決議され、かつ、あの中国でさえ賛成したことからもわかるように、テロ撲滅のための国際社会の取組を促す一般的決議であって、決して、アフガンへの武力行使を認めたものではない。この点は米国自身も認めている。
以上のように、戦闘能力を持つ武装集団(自衛隊)を海外に、しかも戦争行為に加担する形で派遣するのは、戦後初めてのことだったにもかかわらず、小泉政権は、国連決議もない、集団的自衛権に踏み込む戦争に、国民への説明責任を果たさないまま参加した。これを、原理原則を踏みにじった、なし崩し的な既成事実の積み重ね(イラクへの自衛隊派遣も含めて)と言わずして何と言おう。
これでも私は長く政府自民党政権の中におり、海部・宮澤内閣では湾岸戦争を官邸(総理の演説・国会担当)で経験し、橋本政権では、クリントン・橋本両首脳の間で、新しい「日米安全保障宣言」を出し、周辺事態法(ガイドライン法)の策定にも参画した男である。そうした立場からも、小泉政権以降の我が国の安全保障政策は、大きく、その「相場感」を踏み外したものと言えるのだ。
そのような中、私は、9/1早朝放映された「朝まで生テレビ」で、実は、この自衛艦による燃料補給は、インド洋の海上阻止行動、「不朽の自由作戦」にとどまらず、イラク戦争、「イラク自由作戦」に従事する艦船にも、間接補給されているのではないかとの強い疑念を提起した。
「米海軍中央司令部&第五艦隊」のHPの一部と思われるサイト(注2 既に別の内容に差し替え。現在はアクセス不能)に、「イラクの自由作戦」として「有志連合の貢献」の項目があり、「日本政府は、不朽の自由作戦の開始以来、86,629,675ガロン以上の燃料(7,600万ドル以上相当)を貢献した」と書かれていた。これが真正なHPで事実であるとすると、リットル、円換算で約33万kl(80億円)となる。
防衛省が公表している資料によれば、これまでの米艦船への給油実績は38.4万kl(平成19年7月26日現在)だから、単純計算すれば、8割以上の油が、アフガンではなくイラク作戦のために費やされたことになり、「朝生」でもそう指摘した。
ただ、この点は現在、むしろ私はこう考えている。この数字は、イラク、アフガン渾然一体となった総計の数字ではないかと。というのは、米海軍第五艦隊は、ペルシャ湾、紅海、アラビア海、インド洋までを責任海域とし、バーレーンに司令部を置く。司令官は米中央海軍司令官が兼務している。これを前提に、この燃料補給という兵站業務の実態を知れば知るほど、イラク、アフガンの両作戦は、そのオペレーションが少なくとも海域では一体化しているのではないか、と思うからだ。そういう中で、自衛隊の燃料補給も、イラク、アフガンで統合運用されている(そうならそれ自体も問題)のではないか。
いずれにせよ、この米海軍HPの真偽も含めて、事実関係を今後精査、検証する必要がある。私も、私が提起した数字や考え方がすべて正しいとは言わない。米国も、機密情報を含めた情報開示をすると言明しているのだから、私も含め、国会で徹底的に真実を解明していきたい。また、メディアの皆さんの、国民の「知る権利」に応える努力にも大いに期待したい。
なお、テロ特措法の延長問題では、しきりに延長しないと「国際社会の孤児になる」「日米同盟に大きな禍根を残す」等々の議論がされる。私も、イラク戦争とは異なり、米国にアフガンでは超党派の結束があり、欧州も含めた国際社会の取組があることも知っている。その影響をまったく否定するつもりはない。
しかし、結論から言えば、国家の基本にかかわる、自衛隊という戦闘組織を、原理原則、ルールもなく海外に派遣し、戦闘行為に協力するデメリットの方がはるかに大きいと考える。国連決議1368も「各国のできることで最大限の努力」を求めているのにすぎない。何も軍事的協力でなければならないわけではない。
米国との関係も、日米同盟が大事なことは言をまたないが、真に「対等な同盟関係」という観点から見つめ直した方が良い。イラクを含め、これだけ対米追従で米国貢献をしてきて、一体、国連の常任理事国入りや拉致問題で、リップサービス以上の米国の行動はあったのか。米国は本件でも石油の安全保障を強調するが、イラク戦争等で石油の高騰を招いたのは米国の方だ。
都合の良い米国の論理にいつも付き合う必要はない。どの国も、国際社会では米国のように、他国の利益より自国の国益を優先する。それを体裁の良いように「国際益」というお化粧で隠してプレゼンテーションする。そうした冷厳な国際社会の現実を、もっと日本人も知った方が良い。この問題で「国際社会」「国際社会」と言う人ほど、実は国際社会を知らない人が多い。
さらに、今のアフガンの現状を見てほしい。NATO各国軍の犠牲が増えており、各国としては派兵を続行できるかどうか、それぞれの国内で政治的に厳しい事態を迎えている。韓国は、人質事件もあったが、既定路線として年内撤退を決めている。タリバン勢力も盛り返し、武力による「力の解決」が効を奏さなくなってきている。
そういう中で、自衛艦による補給も、ピーク時(17.5万kl/平成14年度)の1/3~1/5に減少してきた。イタリア、カナダ、オランダ、スペイン、ニュージーランド、ギリシャへの給油はゼロとなり、今年現在、給油しているのは米国、英国、フランス、ドイツ、パキスタンのみ。その量も減少、代替可能で、米国でさえ、日本に給油求めるのはパキスタン駆逐艦二隻のみという状況になっている。
インド洋でパキスタン船にガソリンスタンド役をやることが無益とは言わない。ただ、それよりも、テロとの戦いを日本流に示すことこそ求められているのだ。医療や食糧等の民生分野や武器弾薬、麻薬流入阻止のために日本にやれることは山ほどある。時あたかも、外交上日本と良好な関係を保ってきたイランの大統領がカブールに入り、カルザイ大統領に明確な支持を表明した。タリバンにとってイランは、麻薬を売って現金収入を得、そのカネでヤミ市場から武器を調達するためのルートだったのだから、この動きは見過ごせない。
こういうことを含めて我が国は、テロとの戦いへの「包括的パッケージ」を示す必要がある。そうすれば、それぞれの国が、自国の事情を抱えながら、得手の分野で協力するという今の「テロ撲滅のための国際社会の取組」から、指弾されるようなことにはならない。国政の最重要課題の一つとして、これから私も知恵を出して臨時国会で議論し、成案を出していきたい。
(注1)国連決議1368について
この決議は、それぞれの国が、国連による「集団安全保障」の措置がとられるまでの間、国連憲章で認められている権利(個別的自衛権や集団的自衛権等)を行使できると規定しているにすぎない。米国のアフガン戦争は、この考えに基づき、米国が「個別的自衛権」を発動して起こした戦争だった。私は、大義なきイラク戦争と異なり、このアフガン戦争自体の国際法上の正当性は認めている(EU他国際社会も同じ)。
(注2)「米海軍中央司令部&第五艦隊」HPの一部サイトと思われるもの
「United States Naval Forces Central Command and 5th Fleet」
(イラクの自由作戦)
・有志連合の貢献
「日本政府は、不朽の自由作戦の開始以来、86,629,675ガロン以上の燃料
(7,600万ドル以上相当)を貢献した」
(Operation Iraq Freedom)
・A Gobal War: Coalition of Willing Contributions
「The Government of Japan has contributed in exess of 86,629,675gallons of
F76 Fuel-worth more than $76 million dollars-since the inception of Operation
Enduring Freedom.」
(注3)間接補給関係の報道や噂
「間接補給」・・・自衛隊の補給艦から米国の補給艦に給油
・「米海軍第五空母群のマシュー・モフィット司令官は、キティホークの機動部隊がイラク戦争中、海上自衛隊から間接的に洋上で約80万ガロンの燃料補給を受けたことを報道陣に明らかにした。」 (京都新聞 2003年5月6日)
・「石川亨統幕議長は8日の記者会見で、イラク戦争に参加していた米空母「キティホーク」への間接的な燃料補給について「キティホークが2月25日に米補給艦から受給する前に、海上自衛隊はその米補給艦に補給している」と述べ、その可能性を認めた。
統幕議長はキティホークがアフガニスタンのテロ掃討作戦に参加していたことを理由に、間接的な燃料補給の正当性を強調したが、米軍がイラク戦争のためにキティホークをペルシャ湾に派遣したのは周知の事実。防衛庁内でも「キティホークがテロ掃討作戦に参加していたとは初耳」との声がある。」 (日経新聞 2003年5月9日)
・補給艦「ときわ」が「イラクの自由作戦」に参加中の米給油艦「ジョン・エリクソン」にペルシア湾で給油している写真を掲載
(米海軍海上輸送団の機関誌『シーリフト』2003年6月号)
・「海上自衛隊艦船がイラク戦争から帰還。海上自衛隊の曹長が「『ときわ』は同盟軍の艦船に230回以上の給油を行い、600人以上がイラクの自由作戦に参加した。『きりしま』、『はるさめ』が持つ高度な通信能力は、イラクの自由作戦の期間中、同盟軍の艦船を大いに助け、高い有用性を証明した」と述べた。」
(米海軍横須賀基地の機関紙「シーホーク」2003年5月23日号)
・「5月22日に米海軍横須賀基地機関紙『シーホーク』は、「ときわ」の給油活動、「きりしま」「はるさめ」の通信能力が「イラクの自由作戦」で同盟軍の艦船を大いに助けた、との自衛隊曹長談話を掲載した。翌日、この記事は不注意に基づく誤りだったとの米軍からの緊急発表があった。」 (毎日新聞5月23日)
※ 森本敏 拓殖大学教授の発言(朝まで生テレビ9/1早朝)
司会の田原氏から「森本さん、江田さんがさっき言った数字ね、8割以上がイラクへ行っているというのは、森本さんはご存じだった?」と訊かれ、森本氏は「うん、知ってました。知ってましたというのは、僕は、ほとんど海上自衛隊の活動だとか、あるいはアメリカ大使館だとか、あの、アメリカ大使館の武官だとかの情報を」と発言。
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