教育基本法案について問う・・・教育再生は現場から
2006年12月 4日 tag:
教育基本法の全面改正が今国会で成立する。字面を直し理念を明確にすることを否定するものではないが、肝心なことは、教育現場を変えていくことだ。その意味で何点か、安倍首相に「質問主意書」を提出して問いただしてみた。
まず、教育基本法の改正で、今、教育が抱えている諸問題(いじめ、不登校、校内暴力・凶悪犯罪、学級崩壊、中途退学、学力低下等)が、どう具体的に解決されるのか。
答えは案の定「教育基本法案は、我が国の教育の目的及び理念並びに教育の実施に関する基本となる事項等を定めるもので、法案により直ちにその解決策が導き出されるというものではない」。要は、具体的な方策は、今後の個別法の改正や学習指導要領次第ということだ。
問題となった「愛国心」について、国を愛する「心」ではなく「態度」としたのは、経緯的に言えば「内心に踏み込むべきではない」とする公明党等との調整の結果だが、建前としては「『伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する』ことと『他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する』ことを一体として規定したので、これらを受ける語句としては「態度を養う」とすることが適当と判断した」からだそうだ。要は、文脈上の整序という技術的な次元でしかないという弁明だ。
その証拠に続く答弁で「我が国と郷土を愛する『態度』と『心』とは別個のものではなく、教育の過程を通じて、一体として養われるもの」とし、具体的には現場で、例えば「国家や社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産について調べること等を通じて、我が国の国土、歴史、文化等について理解を深め、我が国に対する愛情を育てる指導を充実すること」をあげている。捉える立場によっては議論を呼ぶ内容だ。
中教審答申に反し、義務教育期間(九年の年限)が削除された点を問うと「理念法としての性格から本法案では規定せず、今後は時代の要請に応じて柔軟に対応」するそうで、個別法、すなわち、学校教育法の方で対処する問題とされている。そこでは現在「九年の年限」が規定されており、当面、それを変えるつもりはないようだ。
よく指摘される「学校 家庭及び地域との連携」について、具体的には何を想定しているのか聞いたところずる「例としては、保護者や地域住民等が、学校の課外活動における指導への協力や学校の周辺の安全確保のための活動を行うこと等により学校における教育活動に協力すること等」を挙げた。
安倍首相が、その著書「美しい国」でふれ、自民党総裁選時にも議論になった「教育バウチャー制度」については、最近つとに聞かれなくなったと思っていたが、やはり「論者により捉え方が様々であるものと認識しており、今後、その定義も含め、各方面の意見を聴きながら、対応を考えていくべき」とハギレが悪い。元々、米国の一部の州で導入されている「バウチャー制度」は、全国普遍的な制度ではなく特例的な救済策である旨指摘すると「低所得者や障害者等特定の者を対象として実施されている」と認めた。
そもそも私は、地域社会の拠点として位置づけるべき学校が、越境入学等地域外からの生徒の流入増等により、一層地域から遊離してしまう「バウチャー制度」の導入には慎重であるべきとの立場だ。米国でも、例えば、スラム街(貧困層)で公立校のレベルが低い場合、優秀な生徒がバウチャー制度を使って私立のカソリックの学校に通うといった限定的、補完的場合に利用されている。政府もこの点は認め「学校選択制の導入については、各地方公共団体において、学校、家庭及び地域住民等の相互の連携及び協力の観点も踏まえつつ、地域の実情に即して適切に判断すべき」としている。
この質問主意書を通じて、要するに、教育基本法の改正だけでは、今の教育現場の荒廃に具体的に対処すべき処方箋がないことがわかった。教育再生は教育現場から。その具体的方策については次の機会に論ずることとしたい。
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