北朝鮮への制裁決議採択・・・出口戦略を見極めろ
2006年10月16日 tag:
国連安保理で、北朝鮮への制裁決議が採択された。憲章第7章の非軍事的制裁措置にとどめ、軍事的制裁までは含めなかったという意味で、バランスのとれた内容と評価したい。
今回の核実験は、日本を含む極東、ひいては世界の安全保障の根幹を揺るがす暴挙であり、断じて許すわけにはいかない。核開発の完全放棄を求めて断固として厳しい措置をとることが必要だ。しかし、そのカードの切り方は、今後の北朝鮮の出方や国際的な取組の状況をみながら、熟慮し慎重に行わなければならない。なぜなら、北朝鮮が「核を持ってしまった」という厳然たる事実に思いを致さなければならないからだ。
そもそも、今回の核実験は、北朝鮮にとって「外交カード」でもなければ「瀬戸際外交」でもない。以前、私がこの「直言」で指摘したように、それは、周到な国家生き残り戦略、安全保障戦略の中から出てきたものであり、バクダッドでフセイン像が倒されるのをみて、金正日氏が「核を持っていなかったらこうなる。やはり核開発を急がなければ」と固く固く思い定めたことから始まる。それがこのタイミングで発現したにすぎない。今後の外交は、それを強く念頭に置きながら、組み立てていく必要がある。北朝鮮の「窮鼠、猫を噛む」的な暴発の可能性を、誰も100%否定することはできないのだから。
それにしても、今更のように露呈したのが、日本の北朝鮮専門家といわれる人たちのお粗末さだ。「核実験は最後の外交カードだから容易には切らない」「切ってしまえばカードの意味がなくなるので切らない」「切る切ると言って切らないのがカードの意味」等々とマスメディアでもっともらしく発言していた。そう言えば、ミサイル発射もないと言いながら実際にはあった。
何度も言うが日本に北朝鮮の専門家はいないし、その情報源は極めて限られ、かつ偏っていることを、特にマスコミ諸兄は銘記すべきだ。こうした人たちのこれまでの言動を検証もせず、肩書きもあり使いやすいと言う理由だけで、影響力のあるテレビ等メディアの場で使うのはやめてほしい。北朝鮮専門家に米国の出方等を聞くのがいかにナンセンスかは言うまでもない。
もう一度言う。北朝鮮の暴発はあり得る。しかも今回は核保有国としてのそれだ。だからこそ、中国は、いち早く唐家セン・国務委員を米国に派遣し、「我々が北朝鮮を、制裁を背景に今度こそ本気で説得するから、軍事オプションだけは勘弁してくれ」と言わせたのだ。軍事オプションをとる余裕も政治的動機もない米国にとっても「渡りに船」で、当面、核不拡散さえ防止できる枠組みを設けられれば、米国も本音は、中国、ロシアに下駄を預けたいといったところだろう。米国は、ボルトン国連大使が国務次官当時、中国首脳から聞いたとされる「その気になれば一週間以内に中国は金正日を排除できる」という言葉を、あらためて思い返しているのかもしれない。今回の決議採択の背景にある、こうしたコンテクストを理解しないと、日本だけ突出のピエロ役を演じることにもなりかねない。
そういう意味で、今回の決議で「軍事的措置」や「船舶検査の強制(臨検)」を含まなかったのは正しい。最悪の事態を想定して準備するのが危機管理の基本だ。今の段階で、備えも覚悟もないのに、いたずらに北朝鮮を挑発する必要もない。
問題は、制裁決議後の出口戦略だ。今となっては「六者協議」も、北朝鮮にとっては単なる「時間稼ぎ機関」であったことが判明した。米国の責任も大きい。イラク・イラン問題で、北東アジアの石油もない小さな国に本気で取り組もうとせず、いたずらに北朝鮮に時間を与えた。いわば、都合の良い「先送り機関」だったのである。今後、制裁を背景に、北朝鮮の早期、無条件の六者協議復帰を迫るのは良いが、最終的には、米国との二国間協議を促すという局面になっていくことだろう。今回の事態収拾策で、こちらからの「武力行使」というのは最早ありえないのである。
Copyright(C) Kenji Eda All Rights Reserved.