15兆円バラマキ麻生政権では日本は沈没する
渡辺喜美×江田憲司 "脱・官僚"「新党宣言」
週刊現代 2009年5月9日号 掲載記事
「自民でも民主でもない『第3極』の旗を立てろ」
渡辺喜美氏と江田憲司氏が立ち上げた「国民運動体」の活動が本格化してきた。全国で重ねるタウンミーティングも盛り上がりを見せている。4月18日、横浜市内で行われたタウンミーティングにも600人収容の会場に入りきれないほどの参加者が集まった。今回、「『脱・官僚政権』樹立宣言 霞が関と闘うふたりの政治家」(講談社刊)を緊急出版した両人が、日本再生、政界再編、そして新党結成に向けた思いを語った。
渡辺 麻生政権が15兆円の巨額の経済対策を打ち出しましたね。「過去最大級」という触れ込みで。
江田 この深刻な経済危機の局面では、大規模な経済対策を打ち出すこと自体には反対しません。ただ、麻生政権の経済対策とわれわれが考えるそれとの間には根本的な違いがあります。それは「15兆円の負担を誰に求めるか」という点です。
渡辺 3年後に消費税率を上げると宣言している麻生政権は、この経済対策の原資を、結局は国民の財布から回収しようとしている。
江田 そうなんです。特別会計の過大な積立金、官僚が貯め込んだ「埋蔵金」が充てられるのはほんの一部。あとは赤字国債を発行して借金を重ね、それを3年後の消費税増税でちゃっかり国民から取り戻そうとしている。その前に、もっとやるべきことがあるでしょう。
渡辺 そう。国民にツケを回す前に、まずは国会議員や官僚が身を切るべきです。人数を減らすべきだし、民間企業では当たり前になってきた給与カットにも手を付けるべきです。
江田 12兆円が食いつぶされている天下りの禁止も言わない。官僚が考えた政策をホッチキスでとめただけの「丸投げ」では、そういう発想が絶対出てきませんよ。
渡辺 私がいま心配しているのは、日本経済が大きなデフレに陥るのではないかということです。
現在、08年度のGDPギャップ(需要と供給の差)は20兆円以上あるとされていますが、これから公表される1ー3月期の数字を合算すると50~80兆円になっても不思議じゃないと思っています。どうしてそれほど深刻な需要不足が起きたかといえば、信用バブルに支えられていた海外からの需要が突然消滅してしまったからです。
この需要不足は内需だけでは解消できない。そこで、たとえば円借款で中国やアジア諸国の景気対策に協力すればいい。円借款ならいずれは返済されるから、国民の負担も軽くて済む。
しかし麻生内閣の経済対策は、霞が関の各省へ丸投げしただけです。中長期をにらんだ戦略的対策とは遠いものになっています。
江田 まったくその通り。最近、全国紙が行った世論調査でも、約6割の人が今回の経済対策を「評価しない」と回答していましたが、国民もよくわかっている。いま一番の問題が「経済の先行き不透明」「生活の将来不安」なのに、麻生政権は3年後、5年後の工程表、道筋も示さないまま、場当たり的な政策をポンポンやっているだけ。おまけに「3年後に消費税増税」じゃ元気が出ない。
子育て手当がその典型例です。就学前の3~5歳の子供がいる家庭に3万6000円を支給する。たった1年間、月にならすと3000円を支給されたからといって、さして子育て支援にはならない。「じゃあ2人目、3人目をつくろうか」なんて考える夫婦もいませんよ。
渡辺 定額給付金もそうです。本当に景気を押し上げたい、消費を刺激したいのならば、低所得層に限定するなど給付対象を絞り込み、かつ恒常的に支出していかなきゃ意味がない。
江田 むしろ、大盤振る舞いをあえてすることで、3年後に消費税を上げるために、政治家と財務省が結託してシナリオを書いているんじゃないかとさえ思えてくる。
渡辺 「あのとき、あんなにバラまいたんだから、今度は消費税を上げさせてくれよ」っていう筋書きのシナリオをね。
江田 さらに問題は、「この莫大な経済対策を奇貨として生き延びよう、あわよくば行革の流れを止めよう」という動きが、独立行政法人や政府系金融機関から出ていることです。
だいたい官僚組織というのは、古今東西、自己増殖を図るものなんです。ところが、麻生さん自身が、それを後押ししている。
渡辺 最近は、スポーツ庁をつくる、なんて言い出していますね。
江田 消費者庁に関しては、われわれも「消費者窓口が一元化して前進」として賛成しましたが、麻生政権発足直後に観光庁もできているでしょう。そして今度はスポーツ庁ですか。悪乗りもいい加減にしろと言いたいですね。しかも、民間人を充てるはずだった観光庁長官に「人材がいない」として国交相の役人が就いている。ほうっておいたら消費者庁もそうなるでしょう。
そもそも役所をつくって海外からの観光客が増えるのか、スポーツが振興されるのか、疑問ですがね。
渡辺 私が行革担当相として進めていた内閣人事局の局長は、外部から政治任用することになっていたのに、土壇場で事務担当の官房副長官、つまり官僚が兼任することになってしまった。その理由は、年間2800万円の給料をもらう副長官クラスの人員が増員されるのは行革の流れに反するからだというんです。
ところが、本音は別のところにある。内閣人事局は時の政権が政治主導で人事を行うために作るはずなのに、漆間巌官房副長官は「政治家の人事介入はまかりならん」と言っている。
「公平・中立の人事をするためには、政治家ではなく官僚の手に委ねるべきだ。内閣人事局長は、霞が関の首領である事務の官房副長官が兼務する」という漆間さんの進言を、麻生さんは受け入れてしまった。
江田 だから、私は怒りの質問主意書を出したんです。「なぜ、こんな重要なポストが兼任なのか」、「石原伸晃・自民党公務員制度改革委員会委員長は、『内閣人事局長に事務の官房副長官が選任されることは120%ない』と公言しているが、内閣の方針も同じか」、「だとすれば、『内閣人事局長には事務の官房副長官をあてるのが麻生政権の方針』とした河村官房長官の国会答弁を撤回するのか」といった内容です。
渡辺 そりゃすごい(笑)。
江田 そうしたら、兼任にするのは「役所の新設に伴う国民負担の増大を避けるため」なんて理屈を付けてきましたが、後の質問にはまるで答えていない。
渡辺 完全に逃げてますね。
江田 頭にきたから再質問しましたよ。「国民負担の増大を避けるためというなら、専任の長官をおく観光庁は内閣人事局よりも重要なのか」、「消費者庁の長官も兼任になるのか」とね。
まもなく回答がきますけれど、これは見モノですよ。
渡辺 まさに麻生政権は官僚専制内閣で、霞が関の役人たちのやりたい放題になっている。自分では官僚を使いこなしているつもりの麻生さんが、完璧に官僚の操り人形になっているのがいまの実態なんです。
江田 このままでは日本は霞が関の役人にだけ都合のいい国になってしまう。だからわれわれは、脱・官僚国家を目指す国民運動体を立ち上げたわけです。
渡辺 いまは江田さんと私、それから堺屋太一さんや江口克彦さんといったナビゲーターの方たちと一緒に、草の根のタウンミーティングを各地で行っています。そこで必ず尋ねられるのが、「いつ新党を立ち上げるのか」ということです。実際、われわれの運動に共鳴してくれていても、江田さんや私が立候補する選挙区以外に住んでいれば、票を投じたい候補がいないということになりますから、その訴えは切実です。
江田 今年1月に国民運動体を立ち上げたころは、まだ民主党に対する政権交代の期待が大きかった。「この運動体は民主党中心の政権交代の足を引っ張る存在になるんじゃないか」と批判的に受け止められることもありました。しかし西松事件で小沢一郎代表の元秘書が逮捕されて以降、様相は一変しました。
「自民も民主もどっちもどっちだ」という有権者の声が大きくなっている。どちらにも投票したくないという無党派層の受け皿となる政治勢力を結集することは、新党結成という選択枝も含めて、政治家としての責任だと思います。
渡辺 その国民の期待にこたえるためにも、総選挙前、解散前後には、きちんとした旗を立てなくてはいけない。わたしは新党結党は、そのタイミングだと思っています。われわれは国会議員として、国民に訴えるべき新しい旗を立て、そのうえで信を問わなくてはいけない。
江田 永田町の人たちはせっかちだから、「いつ新党をやるんだ?」ってうるさいですけどね(笑)。
渡辺 この前も、ある新聞に「漂う渡辺氏」なんて記事が出ていました(笑)。 でも、こっそり明かすと、いまは大事の前の大石内蔵助よろしく、昼行灯のふりをしているだけなんです。
江田 いざ「討ち入り」すれば、否が応でも注目は集まるのですから、それで良いんです。
渡辺 そもそも新党結党のハードルは決して高くない。いまの選挙制度からいっても、現職の国会議員5人がそろうのが一番いいわけです。われわれ以外に3人いればいい。ただ、それが目的ではない。
江田 ええ。国会議員の都合だけの、ただの数あわせの政党では国民の信頼を得ることはできません。今の考え方の違う議員の寄合所帯化した政党とは違う、政治理念や主義主張で志を同じくする、まっとうな政党である必要がありますからね。
渡辺 実際、数あわせで5人むりやり集めたと思ったら、すぐにバラバラになった政党もありました。
江田 だからこそ、われわれは国会の垣根を越え、有権者に直接訴え、触れあう道を選んだわけです。根無し草の政党をいきなりつくるのではなく、まず全国に根っこをはやしていく運動です。
新党をつくるのなら、大事なのは人数ではなく、顔ぶれです。国民の期待が大きい分、誰でも彼でも合流してくれればいいというわけじゃないですからね。実は今われわれは、様々なケースを想定して、いろんなシミュレーションをしているところです。
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事実、渡辺氏は次期衆院選に向けた布石も着々と打っているようだ。自民党の小野次郎、長崎幸太郎両衆院議員や、愛媛4区からの立候補を宣言している桜内文城氏の集会に招かれるなど、まさに日本中を東奔西走している。こうした政治家の中から、新党結成時に合流してくる人物も出てくると見られる。
渡辺 名古屋市長選に立候補している前衆議院議員の河村たかしさんなども、理念はわれわれと同じですから、先日応援に行ってきました。ほかにも各地の首長選挙では応援依頼が引きも切りません。
そういえば「週刊現代」の先週号には小選挙区300選挙区の候補者の名前が出ていましたね。実はその中の少なからぬ人たちからアプローチを受けているんです。しかもこの人たちの当選確度がどんどん高まっている。この前も......。
江田 喜美さん、あんまり口を滑らせないでくださいよ(笑)。
渡辺 ハハハ(笑)
江田 実は草の根の国民運動は、そういう人材の発掘という側面もあります。われわれの運動には、全国最年少の市長である山中光茂・松阪市長も参加してくれてますし、国政だけではなく、地方議員からも、参加者が相次いでいます。
渡辺 新しい政治勢力の旗を立てるのは解散の前後、遅くても選挙前ということになるでしょうが、そのときのマニフェストとでも言うべきものが、今回出版した江田さんとの共著『「脱・官僚政権」樹立宣言』です。われわれの考え、目指す政党政治の姿が詰まった本です。
そのわれわれの活動が新党結党という形を取り、総選挙の結果、キャスティングボートを握ることが出来れば、政権交代、さらには政界再編につながる大きなうねりをつくりだすことができる。それができれば、われわれは本望です。
江田 そうです。自民党と官僚の腐れ縁を断ち切るだけでも政権交代には意味がある。しかし、だからといって政権交代さえできればハッピーかといえば、そうじゃない。やっぱり政権交代プラス選挙後の政界再編が起こらなければダメなんですよね。
先週の「週刊現代」の選挙予測もそうでしたが、民主党が単独で過半数を取るのは難しいという報道も多い。とすると、選挙後の政界再編の可能性は極めて高いと思います。
渡辺 その中で第3極としてのわれわれは、基本政策や理念を一致させた再編を進めていき、真っ当な政党政治をつくっていかなきゃいけません。
江田 われわれの今後の活動に、「乞うご期待」と言っておきましょう。
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