私の視点ワイド 江田 憲司 衆議院議員(無所属)
野党調査の"通報制度"「国会で明確なルール作れ」
朝日新聞(10/23) 掲載記事
◇ 野党調査の"通報制度"「国会で明確なルール作れ」
自民党国会対策委員会(国対)が全省庁に野党から資料要求があれば事前に自民党に提示を求めた問題で、民主党は「事前検閲だ」と反発、自民党は「資料要求のルールを作るための実態把握」と対立している。この問題は今の政府と与党との関係を端的に表している。
私は通産省(現経済産業省)の官僚だった頃、内閣参事官室(現総務官室)で自民党国対の政府側窓口を務めたことがあった。その当時からこのようなことは口頭ではよくあったが、その土壌、背景には、「事前審査制」という制度があることに留意すべきである。
これは、内閣が官僚が作った法案などの重要な政策を閣議で決める前に、自民党の政務調査会、総務会などの事前審査を受け、了承を得るという「運用慣行」のことをいう。1962年に赤城宗徳総務会長(当時)が政府に要請して以来、確立した慣行となっている。内閣が決めるべき法案を事前にチェックし、お墨付きを与えてから閣議決定、国会提出の手順を踏んでいるのだから、野党からの資料請求があれば国会運営に支障が出ないように与党がチェックするのは当然という意識なのだ。
しかし、議院内閣制の本家本元、英国では、内閣の意思決定は完全に内閣に一元化され、「与党」という概念すらない。ドイツでは、法案が国会に提出されるまで与党は一切関与せず、国会審議に党議拘束をかけることすら違憲とされる。
議院内閣制とは、国会で多数を占めた政党の代表者が総理大臣になり、その民主的正当性を持った首相が主導する行政のことであり、与党が内閣の意思決定に介入することではない。小泉純一郎氏が総理だった01年、この事前審査制を廃止し「内閣一元化」を図ろうとしたが、結局、うやむやになった。
役所にすれば、事前に与党の了解を得ることで国会審議がスムースにいく。与党も党という非公開の場で事前に議論できることで、法案にその利害を反映しやすくなる。双方の利害が一致して、このような長年の慣行が維持されてきたのだ。
野党が役所に資料を要求したことを与党に事前に提示した今回の問題も、政府・与党にとって都合のよい国会運営のためだ。だが、年金記録の改ざんや汚染米をはじめ、資料要求をきっかけに政策が改まった例は多い。それが事前チェックとなれば、この程度の情報公開の流れすら止まってしまうだろう。
一方で、自民党の申し入れは、役所にとっては渡りに船だった。野党からの資料要求とはいえ、官僚が面と向かって「事務量が多すぎて出せません」とは言いづらい。政治には政治で対抗するのが得策と官僚は心得ている。それにしても農水省がこうした非公開な約束を文書化して残していたとは、驚きだ。
もちろん大量かつ重複の資料要求で役所の業務に支障が出かねないという事情は理解できる。ルール作りは必要だが、それなら権限も責任も明確ではない国対ではなく、内閣と国会との関係なのだから、与野党が入った議院運営委員会という国会の正式機関で決めるのが筋だ。
憲法は三権分立を定め、国会は唯一の立法機関だ。明確なルールに基づき必要な情報を出させ、国会というオープンな場で堂々と議論する。それをベースに議員立法にも積極的に取り組む。こうしてこそ国会は活性化する。情報隠しや密室での審議と決定は、議会制民主主義の健全な姿では決してない。
朝日新聞(10/23) 掲載記事
◇ 野党調査の"通報制度"「国会で明確なルール作れ」
自民党国会対策委員会(国対)が全省庁に野党から資料要求があれば事前に自民党に提示を求めた問題で、民主党は「事前検閲だ」と反発、自民党は「資料要求のルールを作るための実態把握」と対立している。この問題は今の政府と与党との関係を端的に表している。
私は通産省(現経済産業省)の官僚だった頃、内閣参事官室(現総務官室)で自民党国対の政府側窓口を務めたことがあった。その当時からこのようなことは口頭ではよくあったが、その土壌、背景には、「事前審査制」という制度があることに留意すべきである。
これは、内閣が官僚が作った法案などの重要な政策を閣議で決める前に、自民党の政務調査会、総務会などの事前審査を受け、了承を得るという「運用慣行」のことをいう。1962年に赤城宗徳総務会長(当時)が政府に要請して以来、確立した慣行となっている。内閣が決めるべき法案を事前にチェックし、お墨付きを与えてから閣議決定、国会提出の手順を踏んでいるのだから、野党からの資料請求があれば国会運営に支障が出ないように与党がチェックするのは当然という意識なのだ。
しかし、議院内閣制の本家本元、英国では、内閣の意思決定は完全に内閣に一元化され、「与党」という概念すらない。ドイツでは、法案が国会に提出されるまで与党は一切関与せず、国会審議に党議拘束をかけることすら違憲とされる。
議院内閣制とは、国会で多数を占めた政党の代表者が総理大臣になり、その民主的正当性を持った首相が主導する行政のことであり、与党が内閣の意思決定に介入することではない。小泉純一郎氏が総理だった01年、この事前審査制を廃止し「内閣一元化」を図ろうとしたが、結局、うやむやになった。
役所にすれば、事前に与党の了解を得ることで国会審議がスムースにいく。与党も党という非公開の場で事前に議論できることで、法案にその利害を反映しやすくなる。双方の利害が一致して、このような長年の慣行が維持されてきたのだ。
野党が役所に資料を要求したことを与党に事前に提示した今回の問題も、政府・与党にとって都合のよい国会運営のためだ。だが、年金記録の改ざんや汚染米をはじめ、資料要求をきっかけに政策が改まった例は多い。それが事前チェックとなれば、この程度の情報公開の流れすら止まってしまうだろう。
一方で、自民党の申し入れは、役所にとっては渡りに船だった。野党からの資料要求とはいえ、官僚が面と向かって「事務量が多すぎて出せません」とは言いづらい。政治には政治で対抗するのが得策と官僚は心得ている。それにしても農水省がこうした非公開な約束を文書化して残していたとは、驚きだ。
もちろん大量かつ重複の資料要求で役所の業務に支障が出かねないという事情は理解できる。ルール作りは必要だが、それなら権限も責任も明確ではない国対ではなく、内閣と国会との関係なのだから、与野党が入った議院運営委員会という国会の正式機関で決めるのが筋だ。
憲法は三権分立を定め、国会は唯一の立法機関だ。明確なルールに基づき必要な情報を出させ、国会というオープンな場で堂々と議論する。それをベースに議員立法にも積極的に取り組む。こうしてこそ国会は活性化する。情報隠しや密室での審議と決定は、議会制民主主義の健全な姿では決してない。
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