週刊朝日 6/27号 に対談記事「脱藩官僚の会」旗揚げ宣言/江田憲司vs高橋洋一
2008年6月27日 メディア情報 | 新聞・雑誌 tag: 公務員制度改革 , 脱藩官僚の会 , 週刊朝日 , 高橋洋一
「脱藩官僚の会」旗揚げ宣言/江田憲司vs高橋洋一
週刊朝日(6/27号) 掲載記事
独占対談 新政策集団
「脱藩官僚の会」旗揚げ宣言 ・・・・「官僚主導」から「政治主導」に
すまじきものは宮仕え、とは古来言われてきたことだが、いったんそこに入って組織のために働けば終身安泰、というのも、また事実だった。そうした特権を捨てて自立の道を歩む元官僚たちが、新政策集団を結成する。その狙いは何か。キーマン2人に聞いた。
ねじれ国会で先行きが絶望視された国家公務員制度改革基本法は、結局は自民、民主両党の妥協で成立した。各省の幹部職員の人事管理を一元的に行う内閣人事局の新設などが決まったが、天下り禁止規定は棚上げされるなど、霞が関側の巻き返しもすさまじい。
そうしたなか、橋本内閣で省庁再編の旗振り役を務め、今は無所属衆院議員の江田憲司氏(52)、「さらば財務省!」(講談社)の著者の髙橋洋一氏(53)、など、一癖も二癖もあるユニークな官僚OBたちが発起人になって、新政策集団が旗揚げされる。
その名も「脱藩官僚の会」である。
◆ ◆ ◆
――― 「脱藩官僚」というのは耳慣れない言葉ですね?
江田 多くの政治家が「政治主導」を訴えますが、実際は官僚の手のひらの上で踊っているのが現状です。本当に「官僚主導」から「政治主導」に変えるには、官僚の手口を熟知した集団が恒常的に霞が関と対峙することが不可欠です。それができるのは元官僚でしょうが、天下りした官僚が出身母体と戦えるわけがありません。退職後は物心両面で「母屋」(出身官庁)の世話にならず、自分で自分の道を切り開いている、「脱藩」した元官僚が集まった政策集団を作るしかない。そう思って、「官僚すべてを敵にした男」と呼ばれる髙橋さんに一面識もないのに相談したんです。
髙橋 突然連絡をもらったときはびっくりしました。でも直観的に通じるものがありました。私は、小泉内閣で旧知の竹中平蔵さんから「改革を手伝ってくれ」と頼まれ、郵政民営化や政策金融機関の統廃合などの青写真を書いたら、アッという間に官僚の敵にされてしまいました。大臣から指示され、論理的に正しいと確信した政策を立案しただけなんですけどね(苦笑)。
昨年9月に安倍内閣が退陣し、私も今年3月に退職しました。最後の半年間は首相官邸の中に席がなく、内閣府の資材を置いてある倉庫のような部屋で、机一つと電話1台、パソコン1台だけ与えられました。やることが何もないから、インターネットで大学教員の公募を探して申し込んだんです。
江田 今のポストは竹中さんあたりが斡旋したのかと思っていたんですけど?
髙橋 独力で探しました。竹中さんに頼めば斡旋してくれたでしょうが、自分で決めるのが筋でしょ。
江田 私も橋本内閣の政務秘書官で退職したとき、橋本さんに頼めば就職先を斡旋してくれたかもしれませんがしませんでした。自分の意思で辞めるのだから、その後の身の処し方も自分で決めるべきだと思ったんです。
髙橋 私たちは似てますよね。官僚が首相と一緒に本気で働こうとしたら、出身省庁とぶつからざるを得ません。私は何か新しいことをする度に批判されたけど、何が悪いのかさっぱりわかりませんでした。
江田 「省益」じゃなくて「国益」を考えてやっていたわけですからね。
髙橋 江田さんが手がけた橋本内閣の省庁再編だって、猛反対したのは、ポストが減ると困る各省庁の幹部たちだけでしょ。
江田 あの再編は道半ばなんです。地方分権改革を推進すると、中央省庁の機能は外交・安保や財政など、国が本来やるべきことに限定されます。そうなると改革の目的地は「霞が関解体」にならざるを得ません。
管理職になると抵抗勢力に変身
髙橋 先日、ある自民党議員から頼まれて、分権改革を本当にやったらどうなるか議論しました。そうしたら省庁は六つ、公務員と国会議員の数は3分の1。これを実現しようとしたら、各府省の幹部は死にものぐるいで抵抗するでしょうね。
江田 入省したときはみんな、少しでも国のために役立ちたいと思うだけで、おカネや天下りのことは考えなかったはずです。ところが管理職になると、天下りポストの確保や組織防衛に手を染め、行革の抵抗勢力になっていく。この5年間に、キャリア官僚が若手を中心に約300人辞めました。サービス残業が多くて処遇はよくないし、世間からはバッシングされる。「もうやっていられない」と感じたのでしょう。でも若手官僚は、志を失う前に、霞が関の解体に率先して取り組んでほしい。私たちは全力で応援しますよ。
――― 脱藩官僚の強みはなんですか?
髙橋 普通の学者が外から見てポンと言うのと違い、実務経験に根ざして物事が見られます。竹中さんが大臣だったとき、閣議に上がってきた文書にサインしないよう進言したことがあります。役所側が「完全民営化」とすべきところを「完全に民営化」と書いてきたからです。「に」のあるなしなんて普通は気にしませんよね。でも霞が関では違う。 世間で民営化と言えば、株式も経営権も民間に移すことでしょう。霞が関ではこれを「完全民営化」と言います。役人が言う「民営化」にはあと二つ形態があって、株式は外に出すけれど経営に公的な関与の余地を残す民営化と、株式は政府が保有して経営形態は株式会社にする民営化がある。この二つは「特殊会社化」というべきなのに、役人は「民営化」と呼びます。つまり「完全に民営化」という場合は、3種類のどの形態でも完全に行えばOKなのです。こちらがそれに気づいて「勝手に書き換えるなんてひどいじゃないか」と言ったら、「単なる誤植です」と言い訳する。あきれますよね。(笑)
江田 官僚が抵抗するときは、正面攻撃ではなく、見えない落とし穴をいっぱい掘ってきますからね。
橋本内閣では「財政と金融の分離」が最大の課題でした。首相がそのことで記者会見したとき、大蔵省出身の首相秘書官が会見の案文を作り、私が目を離したスキに、首相が今まで一度も言ったことがない「共生」という言葉を入れようとしたんです。直前に気づいて、「絶対に言っちゃダメです」と止められたからよかったんですけどね。もしそこで「共生」という言葉を使っていたら、大蔵省側は次の段階で「共生には国際協調が重要だから、役所の組織も国際的整合性が必要だ」という理屈を出してくる。そして最後は「国際的に整合性ある組織であるためには、財政と金融は一体である必要がある。従って大蔵省に金融部門を残さなければいけない」という結論に結びつけようとする。
こうしたたくらみは初期段階でくい止めないと徐々に浸食してくる。政策通の橋本さんや竹中さんですら危うかったんだから、他の政治家は推して知るべしですよ。そうしたことに警鐘を鳴らすのも脱藩官僚の役目です。
髙橋 脱藩官僚がいると政治主導をやりやすくなるでしょうね。従来のシンクタンクや学者は体裁のよいことは言えても法案は作れません。法案化のノウハウは霞が関が完全に独占してきました。脱藩官僚は法案を書いた経験のある人たちなので、霞が関も態度を変えざるをえなくなります。
江田 私たちの会は、霞が関から飛び出した人たちの受け皿であると同時に、人材バンク的な役割も果たすでしょう。首相秘書官だったとき、内閣や審議会に民間人を登用したいと考えて探しました。でも、これぞという人が本当に少なかった。官僚OBを登用すると官僚主導だと言われます。しかし、脱藩という一線を超えた人なら、霞が関と対峙しうる人材になり得ます。そういう人がいると示す意味は大きいでしょう。
――― 志をもって入省した官僚が、なぜ既得権益の維持に汲々とするのですか?
江田 役人を10年やると民間では通用しません。コスト意識はないし、頭は下げられないし、名刺の出し方も知らない。40代、50代で課長や審議官になると上から陰に陽に、「新しい外郭団体をつくって専務理事ポストを確保しろ。そこに天下りをさせるから、補助金に天下り官僚分の給料をもぐり込ませろ」といった指令が下りてきます。それに忠実に従っていれば、70歳、80歳まで「大蔵一家」、「通産一家」で面倒をみてくれる。民間で働く自信のない官僚は、そうした悪習にどんどん染まっていく構造があるんです。
髙橋 公務員制度改革を手がけたとき、財務省OBから「急にルールを変えるなよ」と言われました。「天下りがルール」だったという認識は、私にはなかったんですよ(笑い)。霞が関を変えるには、入り口でキャリア制度を廃止し、中間段階で能力主義を採用し、出口では天下りを禁止するという3点セットが必要です。そう考えて小泉内閣で着手しようとしたら、明治以来110年ぶりの大改革だと大騒ぎになりました。「キャリア制度の大本は山県有朋がつくった高等文官試験制度で、連合国軍総司令部(GHQ)ですら直さなかった」と言われてね。すごい話でしょ(笑い)。結局小泉内閣では手を付けられませんでした。
江田 橋本内閣で大蔵省の名前を財務省に変えることを決めたときも、「大蔵という名前は律令制国家の時代からある。その歴史・伝統を無視するのか」と批判されたんですよ。
髙橋 「大蔵一家」とよく言われますが、一度入ったら、ずーっと死ぬまで続く一家ですからね。
江田 「一生安心保障システム」なんですよね。
髙橋 でも、国民にとってはとんでもないシステムですよ。やっぱり役人は仕事をしてなんぼでしょ。
江田 昨年、私は「役所から民間企業へ押しつける強制的な天下りが行われているのではないか」と質問主意書で政府に聞きました。従来、各省庁幹部は「民間会社は喜んで受け入れている」と強弁していましたが、なんと安倍内閣は押しつけ的な天下りの存在を初めて認めてしまった。なぜそうなったのかと後で調べたら、裏には内閣参事官の、この髙橋さんがいた。
髙橋 江田さんの質問主意書が出てきたとき、「これをうまく使えば公務員制度改革を前に進められる」と思ったんです。押しつけ型の天下りが存在する事実を省庁側に認めさせないと、いくら規制する仕組みを作っても、規制すべき対象がないというロジックで「真空斬り」になってしまう。それは最悪ですよね。誰かが質問してくれたら「押しつけがあった」と認められるのにと思っていたら、江田さんが聞いてくれた。江田さんのような質問をした政治家が他にいないのは情けない話ですけどね。
――― 脱藩官僚の会は今後、政治家や政党とどう付き合いますか?
江田 私自身は政治家ですが、480人いる衆院議員の中でただ1人、党派色ゼロの純粋無所属だと自負しています。発起人の声かけをしたときも、党派性をなくすことに腐心しました。脱藩官僚の会は特定の政治集団や路線にくみせず、国民本位で考えたときに何が一番良いのかだけを考えて、様々なアピールや政策提言をしていきたい。
髙橋 私たちが良い提案をして、それを取り上げてくれるのであれば、与党でも野党でも構いません。私はある自民党議員と近いと言われますが、民主党議員にもいつも同じことを言っています。私が好き勝手に話していることの中で、それぞれの政治信条に照らして気に入った所だけを取っているんでしょう(笑)。
江田 今後は脱藩官僚の会員を募集し、秋口には設立総会を開く予定です。参加者は多いにこしたことはありませんが、霞が関に睨まれますから、人集めは容易ではないでしょう。現に、私が発起人を探したとき、最初は趣旨に大賛成して、ぜひやりたいと言ってくれた人でも、今の会社に迷惑をかけたくないと最終的に断ってきたケースがありました。そうした圧力に屈せず官僚主導を打破する志を共有できる人たちと一緒に「霞が関解体」を目指します。
――― 国会議員には官僚OBも少なくありません。霞が関とは対峙できませんか?
髙橋 問題は、彼らが改革を目指す側か、既得権益を守る側かのどちらにつくかでしょう。霞が関と一心同体の官僚OBを「過去官僚」と呼んでいますが、政治家にもこのタイプは多い。
江田 与党の官僚出身議員の大半は「過去官僚」ですよ。選挙などで陰に陽に母屋のお世話になるから、官僚の言い分をすぐ代弁します。
髙橋 それは否定できませんね。公務員制度改革を進めようとしたとき、自民党内で応援してくれたのは党人派で、「過去官僚」はつぶす側に立ちました。
江田 私たちも元官僚というだけで「過去官僚」と一括りにされかねない。それは勘弁してほしいという思いもあって「脱藩官僚」と名付けました。これからは「脱藩官僚VS過去官僚」です。
髙橋 この戦いはおもしろいですよ。ゴジラ対メカゴジラみたいな感じで。
江田 どっちがメカゴジラ?(笑)
髙橋 どっちかわからないけど、天下分け目の熾烈な戦いですよ。(笑)
◆ ◆ ◆
霞が関という巨大な体制の前では、一握りの元官僚たちの反乱は蟷螂の斧かもしれない。だが、フランス革命の例をひくまでもなく、旧体制をひっくり返すさきがけとなったのは、旧体制を飛び出した一握りのエリートたちだった。
脱藩官僚の知恵を取り込もうとするのは、自民党なのか民主党なのか。政治家としての江田氏が目指す、リベラルな構造改革論者を糾合した第三勢力づくりとはどう絡むのか。
本人たちの意図にかかわらず、脱藩官僚たちの言動が、近い将来、日本政治変革の台風の目になる可能性は十分ある。
「官僚を敵に回した元官僚こそ日本変革の原動力だ」
週刊朝日(6/27号) 掲載記事
独占対談 新政策集団
「脱藩官僚の会」旗揚げ宣言 ・・・・「官僚主導」から「政治主導」に
すまじきものは宮仕え、とは古来言われてきたことだが、いったんそこに入って組織のために働けば終身安泰、というのも、また事実だった。そうした特権を捨てて自立の道を歩む元官僚たちが、新政策集団を結成する。その狙いは何か。キーマン2人に聞いた。
ねじれ国会で先行きが絶望視された国家公務員制度改革基本法は、結局は自民、民主両党の妥協で成立した。各省の幹部職員の人事管理を一元的に行う内閣人事局の新設などが決まったが、天下り禁止規定は棚上げされるなど、霞が関側の巻き返しもすさまじい。
そうしたなか、橋本内閣で省庁再編の旗振り役を務め、今は無所属衆院議員の江田憲司氏(52)、「さらば財務省!」(講談社)の著者の髙橋洋一氏(53)、など、一癖も二癖もあるユニークな官僚OBたちが発起人になって、新政策集団が旗揚げされる。
その名も「脱藩官僚の会」である。
◆ ◆ ◆
――― 「脱藩官僚」というのは耳慣れない言葉ですね?
江田 多くの政治家が「政治主導」を訴えますが、実際は官僚の手のひらの上で踊っているのが現状です。本当に「官僚主導」から「政治主導」に変えるには、官僚の手口を熟知した集団が恒常的に霞が関と対峙することが不可欠です。それができるのは元官僚でしょうが、天下りした官僚が出身母体と戦えるわけがありません。退職後は物心両面で「母屋」(出身官庁)の世話にならず、自分で自分の道を切り開いている、「脱藩」した元官僚が集まった政策集団を作るしかない。そう思って、「官僚すべてを敵にした男」と呼ばれる髙橋さんに一面識もないのに相談したんです。
髙橋 突然連絡をもらったときはびっくりしました。でも直観的に通じるものがありました。私は、小泉内閣で旧知の竹中平蔵さんから「改革を手伝ってくれ」と頼まれ、郵政民営化や政策金融機関の統廃合などの青写真を書いたら、アッという間に官僚の敵にされてしまいました。大臣から指示され、論理的に正しいと確信した政策を立案しただけなんですけどね(苦笑)。
昨年9月に安倍内閣が退陣し、私も今年3月に退職しました。最後の半年間は首相官邸の中に席がなく、内閣府の資材を置いてある倉庫のような部屋で、机一つと電話1台、パソコン1台だけ与えられました。やることが何もないから、インターネットで大学教員の公募を探して申し込んだんです。
江田 今のポストは竹中さんあたりが斡旋したのかと思っていたんですけど?
髙橋 独力で探しました。竹中さんに頼めば斡旋してくれたでしょうが、自分で決めるのが筋でしょ。
江田 私も橋本内閣の政務秘書官で退職したとき、橋本さんに頼めば就職先を斡旋してくれたかもしれませんがしませんでした。自分の意思で辞めるのだから、その後の身の処し方も自分で決めるべきだと思ったんです。
髙橋 私たちは似てますよね。官僚が首相と一緒に本気で働こうとしたら、出身省庁とぶつからざるを得ません。私は何か新しいことをする度に批判されたけど、何が悪いのかさっぱりわかりませんでした。
江田 「省益」じゃなくて「国益」を考えてやっていたわけですからね。
髙橋 江田さんが手がけた橋本内閣の省庁再編だって、猛反対したのは、ポストが減ると困る各省庁の幹部たちだけでしょ。
江田 あの再編は道半ばなんです。地方分権改革を推進すると、中央省庁の機能は外交・安保や財政など、国が本来やるべきことに限定されます。そうなると改革の目的地は「霞が関解体」にならざるを得ません。
管理職になると抵抗勢力に変身
髙橋 先日、ある自民党議員から頼まれて、分権改革を本当にやったらどうなるか議論しました。そうしたら省庁は六つ、公務員と国会議員の数は3分の1。これを実現しようとしたら、各府省の幹部は死にものぐるいで抵抗するでしょうね。
江田 入省したときはみんな、少しでも国のために役立ちたいと思うだけで、おカネや天下りのことは考えなかったはずです。ところが管理職になると、天下りポストの確保や組織防衛に手を染め、行革の抵抗勢力になっていく。この5年間に、キャリア官僚が若手を中心に約300人辞めました。サービス残業が多くて処遇はよくないし、世間からはバッシングされる。「もうやっていられない」と感じたのでしょう。でも若手官僚は、志を失う前に、霞が関の解体に率先して取り組んでほしい。私たちは全力で応援しますよ。
――― 脱藩官僚の強みはなんですか?
髙橋 普通の学者が外から見てポンと言うのと違い、実務経験に根ざして物事が見られます。竹中さんが大臣だったとき、閣議に上がってきた文書にサインしないよう進言したことがあります。役所側が「完全民営化」とすべきところを「完全に民営化」と書いてきたからです。「に」のあるなしなんて普通は気にしませんよね。でも霞が関では違う。 世間で民営化と言えば、株式も経営権も民間に移すことでしょう。霞が関ではこれを「完全民営化」と言います。役人が言う「民営化」にはあと二つ形態があって、株式は外に出すけれど経営に公的な関与の余地を残す民営化と、株式は政府が保有して経営形態は株式会社にする民営化がある。この二つは「特殊会社化」というべきなのに、役人は「民営化」と呼びます。つまり「完全に民営化」という場合は、3種類のどの形態でも完全に行えばOKなのです。こちらがそれに気づいて「勝手に書き換えるなんてひどいじゃないか」と言ったら、「単なる誤植です」と言い訳する。あきれますよね。(笑)
江田 官僚が抵抗するときは、正面攻撃ではなく、見えない落とし穴をいっぱい掘ってきますからね。
橋本内閣では「財政と金融の分離」が最大の課題でした。首相がそのことで記者会見したとき、大蔵省出身の首相秘書官が会見の案文を作り、私が目を離したスキに、首相が今まで一度も言ったことがない「共生」という言葉を入れようとしたんです。直前に気づいて、「絶対に言っちゃダメです」と止められたからよかったんですけどね。もしそこで「共生」という言葉を使っていたら、大蔵省側は次の段階で「共生には国際協調が重要だから、役所の組織も国際的整合性が必要だ」という理屈を出してくる。そして最後は「国際的に整合性ある組織であるためには、財政と金融は一体である必要がある。従って大蔵省に金融部門を残さなければいけない」という結論に結びつけようとする。
こうしたたくらみは初期段階でくい止めないと徐々に浸食してくる。政策通の橋本さんや竹中さんですら危うかったんだから、他の政治家は推して知るべしですよ。そうしたことに警鐘を鳴らすのも脱藩官僚の役目です。
髙橋 脱藩官僚がいると政治主導をやりやすくなるでしょうね。従来のシンクタンクや学者は体裁のよいことは言えても法案は作れません。法案化のノウハウは霞が関が完全に独占してきました。脱藩官僚は法案を書いた経験のある人たちなので、霞が関も態度を変えざるをえなくなります。
江田 私たちの会は、霞が関から飛び出した人たちの受け皿であると同時に、人材バンク的な役割も果たすでしょう。首相秘書官だったとき、内閣や審議会に民間人を登用したいと考えて探しました。でも、これぞという人が本当に少なかった。官僚OBを登用すると官僚主導だと言われます。しかし、脱藩という一線を超えた人なら、霞が関と対峙しうる人材になり得ます。そういう人がいると示す意味は大きいでしょう。
――― 志をもって入省した官僚が、なぜ既得権益の維持に汲々とするのですか?
江田 役人を10年やると民間では通用しません。コスト意識はないし、頭は下げられないし、名刺の出し方も知らない。40代、50代で課長や審議官になると上から陰に陽に、「新しい外郭団体をつくって専務理事ポストを確保しろ。そこに天下りをさせるから、補助金に天下り官僚分の給料をもぐり込ませろ」といった指令が下りてきます。それに忠実に従っていれば、70歳、80歳まで「大蔵一家」、「通産一家」で面倒をみてくれる。民間で働く自信のない官僚は、そうした悪習にどんどん染まっていく構造があるんです。
髙橋 公務員制度改革を手がけたとき、財務省OBから「急にルールを変えるなよ」と言われました。「天下りがルール」だったという認識は、私にはなかったんですよ(笑い)。霞が関を変えるには、入り口でキャリア制度を廃止し、中間段階で能力主義を採用し、出口では天下りを禁止するという3点セットが必要です。そう考えて小泉内閣で着手しようとしたら、明治以来110年ぶりの大改革だと大騒ぎになりました。「キャリア制度の大本は山県有朋がつくった高等文官試験制度で、連合国軍総司令部(GHQ)ですら直さなかった」と言われてね。すごい話でしょ(笑い)。結局小泉内閣では手を付けられませんでした。
江田 橋本内閣で大蔵省の名前を財務省に変えることを決めたときも、「大蔵という名前は律令制国家の時代からある。その歴史・伝統を無視するのか」と批判されたんですよ。
髙橋 「大蔵一家」とよく言われますが、一度入ったら、ずーっと死ぬまで続く一家ですからね。
江田 「一生安心保障システム」なんですよね。
髙橋 でも、国民にとってはとんでもないシステムですよ。やっぱり役人は仕事をしてなんぼでしょ。
江田 昨年、私は「役所から民間企業へ押しつける強制的な天下りが行われているのではないか」と質問主意書で政府に聞きました。従来、各省庁幹部は「民間会社は喜んで受け入れている」と強弁していましたが、なんと安倍内閣は押しつけ的な天下りの存在を初めて認めてしまった。なぜそうなったのかと後で調べたら、裏には内閣参事官の、この髙橋さんがいた。
髙橋 江田さんの質問主意書が出てきたとき、「これをうまく使えば公務員制度改革を前に進められる」と思ったんです。押しつけ型の天下りが存在する事実を省庁側に認めさせないと、いくら規制する仕組みを作っても、規制すべき対象がないというロジックで「真空斬り」になってしまう。それは最悪ですよね。誰かが質問してくれたら「押しつけがあった」と認められるのにと思っていたら、江田さんが聞いてくれた。江田さんのような質問をした政治家が他にいないのは情けない話ですけどね。
――― 脱藩官僚の会は今後、政治家や政党とどう付き合いますか?
江田 私自身は政治家ですが、480人いる衆院議員の中でただ1人、党派色ゼロの純粋無所属だと自負しています。発起人の声かけをしたときも、党派性をなくすことに腐心しました。脱藩官僚の会は特定の政治集団や路線にくみせず、国民本位で考えたときに何が一番良いのかだけを考えて、様々なアピールや政策提言をしていきたい。
髙橋 私たちが良い提案をして、それを取り上げてくれるのであれば、与党でも野党でも構いません。私はある自民党議員と近いと言われますが、民主党議員にもいつも同じことを言っています。私が好き勝手に話していることの中で、それぞれの政治信条に照らして気に入った所だけを取っているんでしょう(笑)。
江田 今後は脱藩官僚の会員を募集し、秋口には設立総会を開く予定です。参加者は多いにこしたことはありませんが、霞が関に睨まれますから、人集めは容易ではないでしょう。現に、私が発起人を探したとき、最初は趣旨に大賛成して、ぜひやりたいと言ってくれた人でも、今の会社に迷惑をかけたくないと最終的に断ってきたケースがありました。そうした圧力に屈せず官僚主導を打破する志を共有できる人たちと一緒に「霞が関解体」を目指します。
――― 国会議員には官僚OBも少なくありません。霞が関とは対峙できませんか?
髙橋 問題は、彼らが改革を目指す側か、既得権益を守る側かのどちらにつくかでしょう。霞が関と一心同体の官僚OBを「過去官僚」と呼んでいますが、政治家にもこのタイプは多い。
江田 与党の官僚出身議員の大半は「過去官僚」ですよ。選挙などで陰に陽に母屋のお世話になるから、官僚の言い分をすぐ代弁します。
髙橋 それは否定できませんね。公務員制度改革を進めようとしたとき、自民党内で応援してくれたのは党人派で、「過去官僚」はつぶす側に立ちました。
江田 私たちも元官僚というだけで「過去官僚」と一括りにされかねない。それは勘弁してほしいという思いもあって「脱藩官僚」と名付けました。これからは「脱藩官僚VS過去官僚」です。
髙橋 この戦いはおもしろいですよ。ゴジラ対メカゴジラみたいな感じで。
江田 どっちがメカゴジラ?(笑)
髙橋 どっちかわからないけど、天下分け目の熾烈な戦いですよ。(笑)
◆ ◆ ◆
霞が関という巨大な体制の前では、一握りの元官僚たちの反乱は蟷螂の斧かもしれない。だが、フランス革命の例をひくまでもなく、旧体制をひっくり返すさきがけとなったのは、旧体制を飛び出した一握りのエリートたちだった。
脱藩官僚の知恵を取り込もうとするのは、自民党なのか民主党なのか。政治家としての江田氏が目指す、リベラルな構造改革論者を糾合した第三勢力づくりとはどう絡むのか。
本人たちの意図にかかわらず、脱藩官僚たちの言動が、近い将来、日本政治変革の台風の目になる可能性は十分ある。
「官僚を敵に回した元官僚こそ日本変革の原動力だ」
Copyright(C) Kenji Eda All Rights Reserved.