宝島1月号にインタビュー記事
江田けんじが語る『文民統制』崩壊の危機
能力なき政治家・官僚、暴走する「三流官庁」防衛省
江田けんじが語る「文民統制」崩壊の危機
テロ特措法によって生じたモラルハザード
テロ対策特別措置法は11月1日で期限が切れ、インド洋上で米軍艦船へ燃料補給活動を行っていた海上自衛隊は、その活動を打ち切った。この燃料給油活動に関しては政府は否定するが、イラク戦争への燃料転用疑惑が持ち上がり、米空母等への給油量が当初20万ガロンとされていたのが、実は80万ガロンであったことが判明し、政府は訂正を余儀なくされた。また、事実を知りながら「上司に報告していなかった」(11月7日衆院テロ防止特別委員会での証言)という隠蔽体質も指摘された。さらに、海自の補給艦の航海日誌の一部が破棄されていたことも明らかになった。自衛隊の派遣先での重要な活動情報が、最高責任者である防衛庁長官(当時)や総理大臣に知らされていなかったのだ。こうした事態に関して、イラク転用疑惑を『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)で暴露した江田けんじ衆院議員は、隠蔽以前にテロ特別措自体に問題があったと指摘する。「当時小泉首相は『憲法前文と憲法9条には隙間がある。その隙間を埋める法律だ』と述べました。しかし、そもそも憲法の隙間は憲法改正によってしか埋めることはできないのです。小泉元首相も言外に、従来の政府解釈に照らせば、この給油活動は憲法で禁止された集団的自衛権の行使に当たるということを認めていたのです」
シビリアンコントロールの根幹とは、国民の代表者である国会が決めた法律・規範を厳守すること。しかし、その国会が支離滅裂な答弁を平然と見逃したことによって、モラルハザードが起きたと江田議員は指摘する。その帰結がイラク転用・隠蔽問題だったわけだ。
「80万ガロンを20万ガロンと取り違えていた問題も、2003年当時メディアではすでに80万ガロンではないのか、と報じられており、石破防衛庁長官(当時)ほどの精緻な人が調べなかったとは不思議です。トップが知らず、担当課長が独断で隠蔽していたとは、シビリアンコントロールを揺るがす大問題です」
シビリアンコントロールが徹底されるためには、情報公開が不可欠だ。しかし、給油問題で明らかになった防衛省の「不誠実さ」に、江田議員は憤慨する。
「石破防衛大臣は『軍事機密であってもお話しする』と言っていました。私はテロ特措法に関連した質問主意書を18本提出していますが、肝心な質問への回答はにべもなく『答えられない』が多い。資料に至っては黒ぬりだらけです。軍事機密たり得ないことですら防衛省は隠蔽するのです。これではシビリアンコントロールが崩壊していると言われても仕方ないでしょう」
一例を挙げると、江田議員が9月21日に提出した質問主意書で「これまで自衛隊の補給艦が給油した回数(平成19年8月30日現在/777回)それぞれについて、対象艦船の名称とその国籍、給油した時点、地点をすべて明らかにされたい」と糺したが、政府答弁書では「これを明らかにした場合、自衛隊及び諸外国の軍隊等の運用に支障を及ぼすおそれがあることから、答弁を差し控えたい」
と回答拒否だった。
防衛政策に無知な政治家たちが国を滅ぼす
テロ特措法の期限切れで、政府は大慌てだ。新テロ特措法は、11月13日に衆院を通過、参院で否決されても、衆院で3分の2の賛成を得て再議決される見込みだ。なぜ、急ぐのか。「米国との関係が悪化してしまう」というのが、その理由だ。しかし、この認識も間違いだという。
「米国とギリギリの交渉をしたことのない政治家たちが、アメリカの影に怯えているに過ぎません。インド洋上の海上阻止活動には当初16カ国200隻の艦船が出動していましたが、現在では5カ国17席に過ぎず、給油量もピーク時の10分の1です。他国も遠慮なく撤退している。日米関係がゆらぐことはありません」
米国にとっても、日本列島は軍事的に要衝の地であり、日本との関係は重要だ。その意味で米国は、米軍再編問題や「思いやり予算」の方にはるかに関心が高い。むしろ原理原則なき歯止めの効かない自衛隊の海外派遣を続けることの方が、将来の日本を危険にさらす、というのだ。
9月20日、小野寺五典外務副大臣はバーレーンにある司令部を訪問した結果、「海自の給油活動がOEF(不朽の自由作戦)以外の活動に使われる事態はおよそ考えられない」と述べた。司令部のオペレーション・ルームには、周辺海域を航行する船舶の位置を常時、確認できるシステムがあるからだというが、「語るに落ちた」と江田議員はいう。
「司令部には海自の要員も派遣されており、裏を返せばこの発言は、海自の補給艦がイラク作戦に従事した米軍艦船に補給していれば、その事実も知っていたということです」
政府は「情報公開は大事」と言いながら、海自の給油実態や海上阻止活動の成果さえ、明らかにしない。これでは、新テロ特措法が国民に支持されることはない。
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