7日の国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)は、国の整備計画9342キロの全線建設を確認した。未開通1276キロのうち、123キロは税金を投入する「新直轄方式」、残る1153キロは民営化会社が建設する。小泉純一郎首相の「無駄な道路は造らない」とのかけ声で進められた道路公団改革の「成果」を聞いた。
◇族議員は「実」を取った 厳格に採算性判断を ───────── 衆院議員・江田憲司氏
悪い予想が当たった。道路公団の民営化法案が決まった時から分かっていたが、国幹会議の結論は9342キロの高速道路を計画通り全部造るということだ。「無駄な道路は造らない」で始まった道路公団改革だが、道路族議員は公団の経営形態という「名」を捨て、利権である道路整備の確保という「実」を取った。
しかも道路族は、道路整備を進める二つの「打ち出の小づち」を手にした。一つは採算が合わなくても「必要な道路」として国が税金を直接投入する「新直轄方式」。もう一つは民営化した会社に「採算性があるよ」と言いながら、実際は採算の合わない道路を造らせることだ。
「民営化会社に建設拒否権がある」といっても、最終的に決めるのは国土交通省の審議会。自主的な経営などありえない。今まで採算性のない道路を政治的に造ってきたが、これからも続く。40兆円の債務を45年で返すのは夢のまた夢で、45年後のことは族議員も官僚も責任を取らない。通行料引き下げやファミリー企業の問題点を浮き彫りにしたことなど、猪瀬直樹さんも民間人でよく頑張ったが、それは枝葉の部分で、幹の部分は腐っている。60点が合格点とすれば、今回の改革は20~30点だ。
族議員は民主党にもいるから自民党と同罪。その議員を選ぶ「族国民」もいる。地方の道路建設現場の周りの住民に聞くと「道路はいらない」という人が多いが、選挙応援を一生懸命する人は道路派で固められている。有権者の意識が変わらないと政治も変わらない。政治に関心のない人も投票に行くべきだ。
国土政策の観点から、採算が合わなくても必要な道路はある。だから新直轄方式を設けるのはいい。一方で民営化会社は厳格に採算性で道路整備を判断し、国の関与をなくすべきだ。今の計画を全部凍結し、個別路線ごとに財務分析をしながら、優先順位をつける。必要な道路も財政事情が好転した時にやるという判断も当然なされるべきだ。
小泉構造改革の路線は全面的に支持するが、中身が不十分。道路公団改革は組織いじりで終わったのが残念だ。次の政権は小泉さんが手をつけた改革に、以上指摘したような方法で魂を入れていく作業が必要だ。
◇債務処理、税金使わぬ 40年で返済十分可能
───────── 作家・猪瀬直樹氏
国幹会議では、「抜本的見直し区間」に指定されていた第2名神高速道路の2区間(大津市-京都府城陽市、同府八幡市-大阪府高槻市、計35キロ)について、「主要な周辺ネットワークの供用後における交通状況等を見て、改めて事業の着工について判断することとし、それまでは着工しない」ことになった。「建設せよ」一色の地元自治体や経済界に配慮して、いろいろ条件を付けてはいるが、少子高齢化で今後の交通量は増えないから、単純に言うと、永久に着工しないだろう。だから、整備計画9342キロを全部建設するかのような批判は、客観的事実として違う。
地元に道路を造りたいのは国会議員のさがだ。「整備計画を見直す」で押し通せば、民営化法案は間違いなく国会で粉砕されていた。やはり勝たなければいけないわけで、9342キロを「凍結する」とは言わずに、「抜本的見直し区間」を設定して法案を成立させた。ただし、「着工しない」という国幹会議の文言は小泉政権後も拘束力を持つ。
そもそも整備計画は99年以降、延びていない。もし小泉首相が道路公団民営化を提起しなかったら、今ごろはたぶん9900キロぐらいに増えて、通行料金も上がっていただろう。
6社で計40兆円の借金を45年で返済すると法律に明記したことも重要だ。国鉄民営化と違い、債務処理に税金は使わない。各社の返済状況はガラス張りで公開する。私は40年でも十分返せると考えているので、返済が進めば、通行料収入の余剰分をどんどん値下げに回せばいい。第2名神をやめればさらに約1兆円が浮く。その分は、10年後に西日本会社が本州四国連絡会社を吸収する際に、値下げの原資にすべきだ。
東京、大阪の人は鉄道網が発達しているので気づかないかもしれないが、地方はクルマ社会で、庶民は民営化による値下げを実感している。ETC(自動料金収受システム)を付ければ、夜間・早朝や通勤時間帯は50%割引になる。すごいことではないか。
この改革は小泉首相がぶれず、政権が長く続いたからできた。私自身、よくここまでやったなと感じる。最後は、官製談合事件で道路公団副総裁の逮捕まで追い詰めたので、80点だ。
毎日新聞(2/27)
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