『一歩も引かない。すごいね』
過去2回の大会は、夢中になって観戦しました。日本にはぜひ参加して欲しい。ただ聞くと、とんでもない不平等な条件をのまされている。選手会が「不参加」をたてに突っ張る姿勢を応援もしたい。そこで私が通産相秘書官として携わった1995年の日米自動車交渉を例に、今回の問題を考えてみます。
当時、米国は制裁をちらつかせながら、日本車に米国製部品を何年までに何%使えとか、日本に米国車のディーラーをこれだけ増やせとか、市場原理に反する、むちゃくちゃな「数値目標」を押しつけてきた。
国際交渉では、日本人特有の「謙譲の美徳」や「あうんの呼吸」は通用しません。自らの言い分をストレートに主張することが大事。当時、日米同盟に悪影響を及ぼすという意見も政府部内にありましたが、数値目標だけは絶対にのめないという立場を貫いた。日本が降りれば「明日は我が身」の東南アジアや欧州各国に理解を求めて、協力を取り付けたのです。
訴訟社会の米国では「弁護士流」の交渉術で攻め込んできます。当時の米国通商代表部(USTR)のカンター代表もそうでした。最初はハードルを高くあげ、相手の出方を見ながら、交渉の最終局面で着地点を見極める。ある意味「チキンレース」ですから、どちらが最後にハンドルを切るか。それは、どちらに客観的に分があるかで決まる。米国との交渉なら、それはフェアネス、つまりどちらが「公正か」です。自動車交渉も最後は、それが奏功して、急転直下、米国がベタ降りした。
米国って傲慢だし、短気でせっかち。でも僕はとても好きなんです。多様な意見を受け入れる懐の深さがある。交渉や討論でいくらケンカしても、それがフェアなら最後はノーサイド。
WBCの問題は、過去2回優勝の日本が参加しない、その結果、スポンサー料などのジャパンマネーが入らないといった興業上の切り札を、日本は持っている。交渉としては、そんなに難しくないでしょう。
ただ不平等な条件をのんで、これまでの大会に参加している。だから一気にイーブンにするのは難しいかもしれない。まずは自動車交渉のように他国、今回で言えば韓国や台湾を味方につけ、最後まで「不参加」覚悟で臨むことです。
糸口が見つかったら、米国のメンツを立てる配慮も必要です。例えば、WBCを日本や欧州で開催し、その場合には開催国の取り分を多くするとか、ローカルな野球を今後、サッカーのような「世界競技」にする道筋を米国が約束するというなら、交渉の余地はある。
しかし、これ、すごいね。日本が米国相手に一歩も引かないなんて珍しい。今後の対外交渉のモデルになるかもしれませんよ。
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