オピニオン 事業仕分け(下)次の注文は
江田憲司さん 衆議院議員 「みんなの党」幹事長
密室の営みだった予算査定を国民の目の前で行い、無駄づかいを解消する。それをテレビのワイドショーが連日報道し、社会に大きな関心を呼び起こす。匿名の世界に隠れて仕事をしていた官僚を表に引っ張り出し、権限と責任をあぶり出す。これが続けば、公務員の一種の無責任体質が変わるかもしれない。こうした点で今回の事業仕分けは実に画期的で、私も大いに評価をしている。
ただ、結果を冷徹にみれば、概算要求からの削減は7400億円止まり。民主的なプロセスは評価できても、年末の予算編成に必要とされる財源には遠く及ばない。
それは今回の仕分けが、省庁の縦割り行政を前提とした「制度改革なき」無駄づかい解消だったからだ。いわば官僚の土俵で事務事業の査定を政治家が肩代わりしただけ。地方交付税や診療報酬という大物を俎上にのせても、有意な議論ができなかった。制度改革、例えば「地域主権の確立」や「医療制度改革」にまで踏み込まないと、期待される結果は生まれない。
仕分け作業で確かに政治家は活躍した。だが政治家がワイワイガヤガヤやることが「政治主導」ではない。「政治家主導」にすぎない。真の政治主導とは「官邸・首相主導」。議院内閣制では選挙で選ばれた政治家が首相を選ぶ。つまり我々の代表である首相が司令塔となり、政治を主導するべきなのだ。
鳩山由紀夫政権も本来、首相を中心に官邸で国家戦略を決め、それに基づき各省の政務三役が無駄づかいの解消や制度改革を進めるはずだった。ところが国家経営の基本方針を定めるために設けた国家戦略室が、あまり動いていない。私は財務省との関係が大きいとみている。
仕分けにおける財務省の関与を指摘する声は少なくないが、こうしたミクロの作業は財務省を使って構わない。財務官僚は予算をぶった切るのが得意だからだ。ただ半面、国家戦略など大きなアイデアを出すのは不得手。だからこそ国家戦略室が必要なのだが、財務省にすれば自己の存在が脅かされるので、本音は反対だ。国家戦略室がもたついている背景には、そうした隠然たる力が働いている。
あえていえば、民主党と財務省は今、やむにやまれぬ相思相愛関係にある。民主党は脱官僚を旗印にするが、年末までの限られた時間内に予算案を編成するのに財務省の力を借りざるを得ない。かたや財務省は渡りに船と政権に恩を売り、政権交代のなかで省益を守ろうとする。
橋下徹・大阪府知事は2008年1月末、知事に当選した直後、ほぼ100%出来ていた官僚主導の予算案をチャラにした。それゆえ予算の劇的な削減と組み替えができたのだ。民主党はその道をとらず、軟着陸を選んだ。心配なのは、一度手を結んだ財務省との依存関係から来年以降、脱却できるかだ。
財務省ののりを超えない共同作業の仕分けには、おのずから限界がある。それ以上の「深掘り」ができなくなるからだ。
鳩山政権は国家戦略室で練った大方針に基づいて制度改革に切り込むとともに、財務省も含めた天下りの根絶などの霞が関改革に取り組まなくてはならない。そんな心の政治主導にかじを切らなければ、首相の唱える「平成維新」の実現はかなわない。
朝日新聞朝刊 209年12月10日
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