教育基本法案に関する質問主意書
教育基本法案(以下「法案」という。)について質問する。
一 、
現在、教育が抱えている左記の諸問題について、今回の法案が成立・制定されることにより、どういう解決策が導き出されるのか。国民にわかりやすいように、それぞれについて答えられたい。
(1) いじめ
(2) 不登校
(3) 校内暴力・凶悪犯罪
(4) 学級崩壊
(5) 中途退学
(6) 学力低下
二 、
「国を愛する心」または「国を愛する態度」について問う。
(1)
法案第二条第五号では「我が国と郷土を愛する・・(中略)・・態度を養う」と規定されているが、愛する「心」ではなく「態度」とした理由は何か。
(2)
現行の小・中学校の学習指導要領では既に「国を愛する心」「国を愛し」と明記されているが、法案の文言と平仄があわないのではないか。それとも法案成立後に、学習指導要領を改訂して法案の表現にあわせるのか。
(3)
同条の趣旨は、愛する「態度」を養えばよく、いわゆる「面従腹背」、すなわち、心の中では我が国を愛していなくても、外見から判断して「愛する態度」を示していれば足りるとの考えか。
(4)
具体的に「国を愛する態度」を、教育現場でどのように養っていくのか。
三 、
法案第5条第1項で、中教審答申に反し、義務教育期間(9年の年限)を削除した理由如何。法改正後、義務教育期間をどのように規定するのか、あるいはしないのか。
四 、
株式会社が設立する学校は、法案第6条に規定する「公の性質」等と矛盾せず、6条違反ではないと考えてよいか。
五 、
法案第13条に「学校 家庭及び地域住民は・・(中略)・・相互の連携及び協力に努める」と規定されているが、具体的には何を想定、意味しているのか。具体例をあげて説明されたい。
六 、
いわゆる「教育バウチャー制度」について問う。
(1)
安倍首相が、その著書「美しい国」でふれ、自民党総裁選時にも議論になった、いわゆる「教育バウチャー制度」について、政府はどのような制度と認識しているか。
(2)
米国における「教育バウチャー制度」は、全国普遍的な制度ではなく、主に貧困層を対象にした特例的な救済策と理解しているが、政府は、米国の「教育バウチャー制度」の仕組みをどう認識しているか。
(3)
「教育バウチャー制度」、すなわち「学校選択制」は、越境入学等地域外からの学生、生徒の流入増等により、一層学校の地域からの遊離を促進すると考えられ、法案第13条にいう「学校、家庭及び地域住民の相互の連携及び協力」に逆行する政策ではないか。
七 、
法案第16条について問う。
(1)
同条に規定する「不当な支配」とは、どのような場合を指すのか。また、誰が「不当な支配」であると判断するのか。
(2)
同条において新たに追加された、教育は「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべき」という文言により、現状以上に国家統制色が強まると懸念する向きもあるが、その意味内容如何。現行法下の教育または教育行政にどのような影響または変化が及ぶのか。あるいは単なる現状追認(確認)規定にすぎないのか。
右質問する。
教育基本法案に関する質問主意書に対する 答弁書
内閣衆質165 第161号
平成18年11月24日
内閣総理大臣 安倍晋三
衆議院議長 河野洋平殿
衆議院議員江田憲司君提出
教育基本法案に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員江田憲司君提出
教育基本法案に関する質問に対する答弁書
一について
教育基本法案(以下「法案」という。)は、基本法として、我が国の教育の目的及び理念並びに教育の実施に関する基本となる事項等を定めるものである。他方、御指摘のいじめや不登校等の教育をめぐる具体の諸問題については、法案により直ちにその解決策が導き出されるというものではなく、国及び地方公共団体をはじめとして、学校、家庭、地域住民その他の関係者において、相互の連携及び協力の下で、それぞれの問題の解決に向けた施策や措置等を講ずることにより対処する(法案第13条、第16条から第18条まで等参照)必要があると考えている。
二の(1)について
法案第2条第5号では、教育の目標の一つとして、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」ことと「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する」ことを一体として規定することとしたところであり、これらを受ける語句としては「態度を養う」とすることが適当と判断したものである。
二の(2)について
お尋ねの「国を愛する心をもつ」や「国を愛し」等は、現行の学習指導要領において、教科等の目標や内容等として規定しているものであり、法案第2条第5号において、教育の目標として「我が国と郷土を愛する・・・態度を養うこと」と規定しているのと同様の趣旨のものである。したがって、法案の成立によって、直ちに現行の学習指導要領を改訂しなければならないものとは考えていない。
二の(3)について
我が国と郷土を愛する「態度」と「心」とは別個のものではなく、教育の過程を通じて、一体として養われるものと考えている。
二の(4)について
現在、小学校、中学校及び高等学校等においては、例えば、国家や社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産について調べること等を通じて、我が国の国土、歴史、文化等について理解を深め、我が国に対する愛情を育てる指導が行われており、法案が成立した後においても、このような指導の充実を図ってまいりたい。
三について
法案は、基本法として、我が国の教育の目的及び理念等を定めるものであるため、義務教育の期間については、時代の要請に応じて柔軟に対応することができるよう、別に法律で定めることとし、法案には規定していない。なお、義務教育である小学校や中学校等の修業年限については、既に学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定されているところである。
四について
構造改革特別区域において学校設置会社により設置される学校は、法案第6条第1項に定める「公の性質」を有し、学校教育法の規定に基づいて設置されるものであり、同項の規定に抵触するものではない。
五について
法律第13条に規定する「相互の連携及び協力」の例としては、保護者や地域住民等が、学校の課外活動における指導への協力や学校の周辺の安全確保のための活動を行うこと等により学校における教育活動に協力すること等が挙げられる。
六の(1)について
お尋ねの「教育バウチャー制度」は、論者により捉え方が様々であるものと認識しており、今後、その定義も含め、各方面の意見を聴きながら、対応を考えていくべきものと考えている。
六の(2)について
現在、米国の一部の州等において導入されているいわゆる「教育バウチャー制度」の内容はそれぞれ異なっているが、低所得者や障害者等特定の者を対象として実施されているものと認識している。
六の(3)について
いわゆる「教育バウチャー制度」の導入に伴うものも含め学校選択制については、学校と地域とのつながりが希薄になるなどの指摘がされている一方で、学校に対する保護者などの関心が高まり、家庭や地域の協力を得やすくなるという指摘もされている。
また、学校選択制の導入については、各地方公共団体において、学校、家庭及び地域住民等の相互の連携及び協力の観点も踏まえつつ、地域の実情に即して適切に判断すべきであると考える。
七の(1)について
「不当な支配」とは、国民全体の意思を離れて一部の勢力が教育に不当に介入する場合を指すものである。「不当な支配」であるか否かが争いとなった場合には、最終的には司法の場において、個別具体の事実関係に即して判断されるものと考える。
七の(2)について
お尋ねの文言は、教育が、日本国憲法の下、国権の最高機関とされ、国民を代表する議員により組織される国会において制定された法律の定めるところにより行われるべきものである旨を明確にするために規定するものであり、御指摘の「国家統制色が強まる」との懸念は当たらない。
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