米国務省は2006年3月1日、「国際薬物規制戦略レポート」(以下「レポート」という。)を発表し、北朝鮮の政府機関や政府当局者が、麻薬や偽造紙幣の流通によって得た資金を、海外の金融機関を使って、マネーロンダリング(資金洗浄)した「確かな証拠がいくつもある」と指摘した。よって、以下質問する。
一 、
日本政府は、レポートが指摘した麻薬取引・紙幣偽造等を、米国務省と同じように、北朝鮮政府による「国家犯罪」ととらえているか。それとも、北朝鮮政府が主張するように、「個人的な犯罪」ととらえているか。
ちなみに、前NSC(国家安全保障会議)アジア上級部長マイケル・グリーン氏も「経済発展に失敗した北朝鮮は、麻薬や偽のドル紙幣などの密輸を国家の重要な財源にしている」と指摘している。また、元北朝鮮最高幹部・黄長燁氏も「紙幣を偽造するとか麻薬を製造するとか、それを金正日の許可なしに絶対にすることはできない」と指摘している。
二 、
レポートでは「日本での過去の麻薬押収事件のうち、30%から40%は北朝鮮に関連している」と指摘したが、それは事実か。日本で発生した事案については、当然、日本政府当局者からの情報提供が根拠になっていると推察されるが、その「30%から40%」という積算根拠と、北朝鮮が関与した事件の概要をすべて明らかにされたい。
三 、
米議会調査局の「麻薬密輸と北朝鮮」によれば、1970年以来、北朝鮮関係者がヘロインなど麻薬、覚醒剤の密輸によって逮捕されたケースは20カ国で32件にのぼり、そのうち、外交官や情報機関員と思われる人物が関与していたケースは、少なくとも11件あると指摘している。このような事実を日本政府としても把握しているか。
四 、
またレポートでは、北朝鮮が「スーパーノート」と呼ばれる精巧な偽ドル札の製造に関与していると指摘しているが、日本政府は、北朝鮮による紙幣偽造の実態について、どの程度把握しているか。その事実関係を明らかにされたい。
五 、
こうした麻薬取引、紙幣偽造等の不正行為で得られた資金は、金正日総書記へ献上される金品や大量破壊兵器の部品調達、在外公館の運営費用にも充てられているというが、日本政府として、そうした事実を把握しているか。
六 、
こうした国家犯罪行為に対しては、米国政府のように「徹底的に調査し、司法の下で、すべての法律を駆使し刑事訴追する」といった取り締まりを今後強化していくべきではないか。レポートでも他国に同様の措置を強く求めているが、日本政府の方針如何。
七 、
拉致問題をはじめ北朝鮮との諸懸案の解決のためには、国際世論を味方につけ、北朝鮮に対する国際的包囲網を形成していくことが有効と考える。その意味で、以上述べた北朝鮮の政府機関や当局者による国家犯罪を詳細に把握し、それを国際社会に積極的に発信していく必要があると考えるが、日本政府の対応如何。
八 、
また日本政府として、米国政府のように、このような麻薬取引・紙幣偽造等の国家犯罪行為を証拠として北朝鮮政府に提示し、違法行為の即時中止を求めるべきではないか。
右質問する。
北朝鮮による麻薬取引・紙幣偽造等の国家犯罪に関する質問主意書に対する 答弁書
内閣衆質164号第162号
平成18年3月28日
内閣総理大臣 小泉純一郎
衆議院議長 河野洋平殿
衆議院議員江田憲司君提出
北朝鮮による麻薬取引・紙幣偽造等の国家犯罪に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員江田憲司君提出
北朝鮮による麻薬取引・紙幣偽造等の国家犯罪に関する質問に対する
答弁書
一、三及び五について
御指摘の北朝鮮による麻薬取引・紙幣偽造等に係る行為の実態については、詳細を把握していない。
二について
御指摘の「レポート」の作成に当たって、我が国の捜査当局から情報を提供しておらず、御指摘の「レポート」の記述が事実かどうかについては、お答えする立場にないが、平成9年から14年までの間に警察が検挙した覚せい剤の大量押収事件(覚せい剤1キログラム以上を押収した事件をいう。)における総押収量の約35パーセントが北朝鮮を仕出地とするものであった。このうち、北朝鮮当局が関与した事件は、現在のところ、確認されていない。
四について
現在のところ、北朝鮮籍船舶の船員が偽造された紙幣を行使した事例等については把握しているが、北朝鮮当局が関与した紙幣の偽造の実態については、把握していない。
六について
捜査当局においては、刑罰法令に触れる行為があると認める場合には、引き続き、厳正に対処していくこととしている。
七について
政府としては、拉致問題を含む北朝鮮をめぐる諸懸案の解決に向けた我が国の立場に対する国際社会の理解と協力を得るべく、引き続き所要の情報収集を行い、国際社会との一層の連携に努める考えである。
八について
政府としては、引き続き、北朝鮮をめぐる諸懸案に係る情報収集に努めるとともに、北朝鮮に対して、不法行為に関与しないことを含め、国際社会の一員としての責任ある対応を求めていく考えである。
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