在日米軍の再編をめぐり、沖縄・宜野湾市の普天間飛行場の移設先が問題となっている。普天間飛行場の返還は、橋本政権時(96年4月)、「米兵の少女暴行事件」に端を発した沖縄の基地負担軽減の一環として、日米トップレベルの合意で約束されていたものである。その政策決定時の当事者の一人として、以下、質問する。
一 、
なぜ、移設先(政府案)が、当初構想された名護市辺野古の「沖合」では
なく、一部陸地を含む「沿岸」となったのか。
普天間飛行場に関するSACO最終報告(平成8年12月2日)では、代替施設として3つの具体案、すなわち(1)ヘリポートの嘉手納飛行場への集約、(2)キャンプ・シュワブにおけるヘリポートの建設、並びに(3)海上施設の開発及び建設について検討された結果、(3)「海上施設の建設を追求」することとされた。そして、その理由としては、「海上施設は、他の2案に比べて、米軍の運用能力を維持するとともに、沖縄県民の安全及び生活の質にも配意するとの観点から、最善の選択」だからとされている。
今回、この考え方をとらず、かつ、あえてこれまでの計画地を変更してまで、キャンプ、シュワブ南部沿岸部の陸地に一部かかる案にしたのか。まさに、ここに、安全・騒音・環境面等における、周辺住民の懸念からくる反対の最大の理由があるのではないか。
二 、
なぜ、新たに建設される飛行場が、海上浮体方式ではなく埋立方式なのか。同じくSACO最終報告では、「海上施設は、軍事施設として使用する間は固定施設として機能し得る一方、その必要性が失われたときには撤去可能なものである」とされ、今後の国際・軍事情勢如何によっては、沖縄の基地負担軽減に大いに資する可能性も考慮された。そして、それを担保するために、その「海上施設の工法」としては、技術専門家グループの検討の結果、(a)杭式桟橋方式(浮体工法): 海底に固定した多数の鋼管により上部構造物を支持する方式。(b)箱(ポンツーン)方式: 鋼製の箱形ユニットからなる上部構造物を防波堤内の静かな海域に設置する方式。(c)半潜水(セミサブ)方式: 潜没状態にある下部構造物の浮力により上部構造物を波の影響を受けない高さに支持する方式、いずれもが実現可能とされた。
にもかかわらず、「普天間飛行場代替施設基本計画」(平成14年7月29日・第九回代替施設協議会)では、「埋立工法」で建設することが決定された。埋立は、右記三つの工法と異なり、恒久施設化する可能性が高く、また、藻場やリーフの破壊、海流の変化による生態系への悪影響等環境への負荷が著しく大きいという欠点もある。にもかかわらず、誰が、なぜ、どういう経緯で、SACO最終報告の趣旨を無視してまで、このような決定を下したのか。
三 、
普天間飛行場の移設先の迷走は、まさに返還合意当時の原点を見失った政府の迷走にある。安全保障上の要請から、沖縄県内移設しかないとすれば、周辺住民の安全面や騒音等の環境面、生態系への負荷等の負担を極力軽減し、日米安保上の要請も満たす、そのベストミックスを追求するしかない。
とされるものは、埋立案に比し、(1)海底にくい打ちをして滑走路を支えるため、リーフや藻場を痛める度合いも少なく、ポンツーン方式のようにコンクリート構造物の防波堤を設ける必要もなく海流の流れを変えることもないので、生態や環境への負荷も比較的少ない、(2)くい打ちなので撤去可能性もあり、将来固定化しないことで沖縄県民感情にも沿う等のメリットがあるとされた。
代替施設を海上沖合に設置することで、ヘリコプターの飛行経路が住宅地にかかることが避けられ、陸地とは「桟橋又はコーズウェイ(連絡路)により接続することが考えられる」。これらはすべてSACO最終報告に盛られている内容である。
もう一度、この原点に立ち返って、日米両政府が、移設案の再検討をすべきだと考えるが、政府の見解如何。シーファー駐日米大使も2月13日の那覇市での講演で、「地元からいい案が出れば耳を傾ける。よりよい考え方が出れば、それを採る可能性もある」と述べ、沿岸案の修正もありうるとの考えを表明している。
右質問する。
普天間飛行場の移設先について小泉首相へ公開質問状に対する答弁書
内閣衆質164 第120号
平成18年3月10日
内閣総理大臣 小泉純一郎
衆議院議長 綿貫民輔殿
衆議院議員江田憲司君提出
普天間飛行場の移設先に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員江田憲司君提出
普天間飛行場の移転先に関する質問に対する答弁書
一及び三について
普天間飛行場については、平成8年12月2日に発表された「沖縄に関する特別行動委員会」の最終報告書(以下「SACO最終報告」という。)、平成11年12月28日に閣議決定された「普天間飛行場の移設に係る政府方針」(以下「政府方針」という。)及び平成14年7月29日に策定された「普天間飛行場代替施設の基本計画について」(以下「平成14年基本計画」という。)を踏まえ、一日も早い同飛行場の返還に向けて一貫して努力をしてきたが、当初想定されていた5年から7年以内での同飛行場の返還は実現しておらず、同飛行場の代替施設(以下「代替施設」という。)の完成までに更に十数年要することが見込まれていたところである。また、平成16年8月13日の沖縄県宜野湾市における我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊(以下「在日米軍」という。)のヘリコプター墜落事件の発生もあり、より早期の同飛行場の返還の必要性が日米両国で強く認識されたものである。
このため、在日米軍の兵力態勢の再編に係る我が国とアメリカ合衆国との間の協議において、在日米軍の運用上の能力を維持しつつ、同飛行場の返還を加速することができるような多くの選択肢を検討し、住民の生活環境や安全、環境に対する影響等の複数の要素を考慮した結果、平成17年10月29日に開催された日米安全保障協議委員会で発表された文書において、代替施設を「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶL字型」に設置するとの案(以下「L字型案」という。)につき合意したものである。
政府としては、これに基づき、一日も早い同飛行場の返還に向けて全力を尽くす考えである。
二について
代替施設については、SACO最終報告後、平成11年11月22日の沖縄県知事による代替施設の移設候補地の表明、同年12月27日の名護市長による代替施設の受入れの表明等を踏まえ、政府方針において、代替施設の工法及び具体的建設場所の検討を含めて基本計画の策定を行うこと、代替施設の基本計画の策定に当たっては、政府、沖縄県及び地元地方公共団体の間で協議機関を設置し、協議を行うこと等を閣議決定した。
政府方針に基づき、平成12年8月25日、代替施設の基本計画の策定を目的として、沖縄及び北方対策担当大臣が主宰し、防衛庁長官、外務大臣、国土交通大臣、沖縄県知事、名護市長、国頭郡東村長及び国頭郡宜野座村長を構成員(平成13年1月16日現在。また、環境に係る課題を協議する場合は、環境大臣の出席を求めることとされていた。)とする代替施設協議会が設置され、代替施設の規模、工法及び具体的建設場所その他代替施設の基本計画の策定に必要な事項を協議することとされた。
代替施設協議会での約2年間にわたる協議を積み重ねた結果、平成14年7月29日に開催された第9回代替施設協議会において、平成14年基本計画の案が決定された。政府において、これを受けて、同日、平成14年基本計画を策定した。
なお、L字型案に係る工法については、現時点において決定されていない。
普天間飛行場の移設先に関する再質問主意書
普天間飛行場の移設先について、地元沖縄との調整が難航しているが、政府は現行案で「地元の理解を求める」との言を繰り返すばかりである。また、先に提出した私の質問主意書に対する回答(内閣衆質164第120号。以下「回答書」という。)も、過去の閣議決定等の経緯をなぞるだけで、とても国民及び沖縄県民、名護市民等への説明責任を果たしているとは言えない。そこで、標記の件について再質問する。
一 、
「回答書」では、「多くの選択肢を検討し、住民の生活環境や安全、環境に対する影響等の複数の要素を考慮した結果、(略)代替施設を「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶL字型」に設置するとの案(以下「L字型案」という。)につき合意した」とされているが、当初、政府自らが最善とした名護市辺野古の「沖合案(海上施設案)」をあえて変更し、今回「L字型案」とした理由を、ご指摘の「住民の生活環境や安全、環境に対する影響等の複数の要素」に照らして、具体的に説明されたい。
二 、
度重なる地元沖縄関係者の「L字型案の修正・見直し要請」にもかかわらず、今月末を目途にまとめられる最終報告でも、政府は「L字型案」を一切修正しないと理解してよいか。
三 、
政府は、この「L字型案」実現のために、沖縄県知事が持つ公有水面の使用権限等を国に移す特別措置法の制定等を検討している事実はあるか。
右質問する。
普天間飛行場の移設先に関する再質問主意書に対する 答弁書
内閣衆質164第145号
平成18年3月24日
内閣総理大臣 小泉純一郎
衆議院議長 河野洋平殿
衆議院議員江田憲司君提出
普天間飛行場の移転先に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員江田憲司君提出
普天間飛行場の移転先に関する再質問に対する答弁書
一について
平成17年10月29日に開催された日米安全保障協議委員会で発表された文書(以下「発表文書」という。)において、普天間飛行場の代替施設を「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶL字型」に設置するとの案(以下「L字型案」という。)につき合意するに当たっては、我が国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の兵力態勢の再編(以下「米軍再編」という。)に係る我が国とアメリカ合衆国(以下「合衆国」という。)との協議において、発表文書に示されているように、「近接する地域及び軍要員の安全」、「普天間飛行場代替施設の近隣で起こり得る、将来的な住宅及び商業開発の態様を考慮した、地元への騒音の影響」、「環境に対する悪影響の極小化」、「平時及び緊急時において運用上及び任務上の所要を支援するための普天間飛行場代替施設の能力」、「地元住民の生活に悪影響を与えかねない交通渋滞その他の諸問題の発生を避けるために、普天間飛行場代替施設の中に必要な運用上の支援施設、宿泊及び関連の施設を含めること」を含む複数の要素を考慮したところである。
二について
政府としては、L字型案に関し、具体案の最終的な取りまとめに向け、合衆国との協議を進めつつ、関係する地方公共団体及び住民の理解と協力が得られるよう努めていく考えである。
三について
政府としては、発表文書において示された普天間飛行場の代替施設の設置を含む米軍再編に関し、関係する地方公共団体等の理解と協力が得られるよう、その内容等について全力を挙げて説明しているところである。
こうした状況において、政府としては、ご指摘のような「特別措置法の設置」を検討している事実はない。
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